Nicotto Town



『ドンデン返し』の見事な知的生産物


『ドンデン返し』という評を使うのはマナー違反である。
小林信彦の映画評論でこの良識を拝見、基本的に同感している私ですが、
見事に感じた作品には、この表現を使って紹介したくなるのも人情です。

映画だと『アパートの鍵貸します』を筆頭に挙げますね。マイベスト。
また、チャップリンを知らない方だったら『独裁者』もその範疇に入ると思うなー。
松田優作の『蘇る金狼』は原作と異なるエンディングが良かった。スタイリッシュ。

推理小説や探偵小説にはこの手の作が山積みなので、かえって決められぬ。
エラリー・クイーンは『エジプト十字架の秘密』が緻密でよい。独りよがりがない。
少々毛色は違うが、J・アーチャーの作品にはハッピーなドンデン返しが多くて和む。

音楽にだってあります。イントロから聴くとトンデモない着地点に誘う名盤が。
LP世代だから、40~50分という鑑賞の結果、どこまで連れて行かれるかが楽しみ。
コンセプトアルバムというのは代表的なパターンです。現代には難しい。

ビートルズのサージェントは外せない。やはり『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』は画竜点睛。
クリムゾンキングの宮殿、フロイドの狂気などはドンデン返しとは表現しないか。
ザ・フーの『トミー』『四重人格』はこう評しても間違いではないと思う。

ジャンル変わって落語。『芝浜』は見事、『居残り左平次』の加速感はロックだ。
『親子酒』は小さんの演ったのがスキだった。シュールなエンディングは凄かった。
古典的な序・破・急の『急』の潔さはドンデン返しに通じるのではないかな。

絵画鑑賞では、先入観なしに見ていた絵の背景を知ってショックを受けることが多い。
これは思い込みゆえの個人的ドンデン返しとでもいうべきか。
作者と作品を峻別して考える私なので、バックグラウンドで驚くことが多い。

アンドリュー・ワイエスの『クリスティーナの世界』は創作だと思っていた。
足の不自由な姉を描いた写実的作品だと知って見方が全く変わった。
なぜ空や家があのように描かれたのか腑に落ちた。ムズカシイですねー。

セラフィーヌという女流画家の『葡萄』という絵は恐るべき情念の塊に見えた。
のちに素朴派の画家をまとめて調べ、この女性がやはりアチラの方だと判明。
うーむ、アウトサイダー・アートって言葉以前にこの絵は凄い。

少々脱線。北杜夫が自分の担当した精神病患者(失礼!)の言動や絵を紹介してた。
このトビ方や論理が尋常ではない。驚いた。驚くべきものは全て美しい。
一時期流行した『サイケ系の一面呪詛書き殴り』より遥かに純度が高く、輝いていた。

幼時に喘息治療で薬物中毒になった私は、シラフでぶっ飛んでいるものを好む。
また精神世界とか○次元からパワーを頂く系の方も苦手、純粋知性の産物がスキ。
こう考えると学問にも『ドンデン返し』的なものがある。理系文系問わず。

論理学、とくにカミサマの存在証明にハマる人はオモシロイ。
あのヴィトゲンシュタインも晩年にやっている。現代数学者にもいたはずだ。
けっきょくソコに行くのねハハハハハ、という笑いもドンデン返しの産物。

理論物理学の正しさが後世に証明されるのも同じ。重力波が代表例ですね。
大統一理論の先にあるのは、実はどれもこれも無関係でしたー、というオチではないか。
心とか知性とか感情ってものは、分子生物学的な『ノイズ』という結論を期待する。

卑近な例も挙げよう。ふた昔前、体型と好みに合う七分袖のシャツが無くて困ってた。
ある日スーパーの安売り580円で発見。帰宅し家人と娘に自慢、娘が値札を観察。
そこには『婦人用ボトム』との表記……これ以降私は婦人物を平気で着るようになった。

ドンデン返しは衝撃に比例して驚きが大きくなり、それだけ人に話したくなる。
でも関心を抱いた人がアプローチしたとき、自分同様の衝撃を受けてほしいとも思う。
感想は簡単だけど、紹介や評論ってのはマコト難しい。でも知らせたい。

最後に一つ紹介しよう。上手にできるかなー。

戦後の一時期、鉄の棒を鳴らしながら夜回りする夜警という職業があった。
主人公は元軍人と粗野な大男の2人と組まされ、毎夜交代で夜回りに出る。
元軍人は何を話しかけても「私は戦争は嫌いです」しか言わない中年男。

船山という大男は飲む買う専門、あらゆる女をくどきまくり戦果を主人公に吹聴する。
主人公は彼が胸中に抱えた物凄い「空洞」に惹かれ、彼と親しくなる。
ある夜、船山が詰所に血相を変えて飛び込む。街外れの貧しいアパートで火事が。

立原正秋という作家の初期作、『夜の仲間』という中編です。
立原は文壇や権威への志向が(実は)強く、かなり戦略的匂いの強い作品ですが、
船山の描写は『粗にして野だが卑ではない』という若干ジュネ的な造型で、ヨイ。

大したドンデン返しではありませぬが、戦後混乱期を舞台にした童話的な一作。
どの敗戦国の戦後にも、こうした男たちがいたし、これからもいるんだと思う。
彼らこそ戦争が生んだ真の『勝者』だと考える私の精神構造も常時ドンデン返し。

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2016/02/16 08:19
>ラムセス2世さん

ドンデン返しの対極は、デレデレした呪詛(?)の続く小説やミニマルミュージックでしょうか。
こちらも好きです。野坂や深沢七郎、安岡らの私小説的作品、ライヒ、池田亮司の音楽あたり。
モンドリアンの絵も近いかな。これらはダウナー系のトリップ感が醍醐味かもしれませぬ。
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2016/02/16 00:30
大統一理論のどんでん返しは・・・コワイ。
出来れば聞きたくない。
・・・生きてるうちに大統一理論自体が完成しないだろうから、心配する必要はなかったかも。
ほっ

落語の急、小説の転。
これらがないと、とたんに話としてはつまらなくなりそうです^^;
なくても面白いものがあったら読んで見たい気もしますが、
きっと無理でしょうね><
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2016/02/15 08:14
>もみじさん

クリスティーナは姉でなく知人でしたっけ……間違えてしまいました。創作要素もあるのですね。
上方落語はあまり聴いておらず不勉強です。うどん屋というのは落語によく出てきますね。
小さんは噺が進むにつれ大汗かいて紅潮していく、茹蛸みたいな熱演にヤラレますです。
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2016/02/15 08:10
>ミーさん

初めまして、コメント有難うございます。
チャップリンはほとんど見ましたが、ポーレット・ゴダードが出ているものを贔屓してます。
翻訳小説に抵抗がなければ、ジェフリー・アーチャーはだいたいお勧めできます。
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2016/02/14 15:09
アンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」は多少創作が入っているようです。
クリスティーナという知人が足が不自由なのは確かなのですが胴体のモデルは奥様とのこと。
私もワイエスの作品が好きで日本に来るとよく見に行っていました。

五代目・小さん師匠が手掛ける「酒噺」はどれも絶品でしたね。
私は最近本家の上方の「親子酒」を聴きました。
これは結構長くて前半は酔った息子がうどん屋に絡む話になっています。
機会があったらこちらも面白いのでネットなどで調べてみてくださいね^^
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2016/02/14 14:32
初めてコメントさせて頂きます。
チャップリンの独裁者をはじめ好きな作品がいくつかあったので嬉しくなりました^^
どれも面白いですよね
紹介されている作品も面白そうです
今度書店に立ち寄った時に見てみます✿



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