骨董趣味同様、青年期を過ぎて楽器を始める方には真面目な方が多い。
マニア・コレクター化するケースもよくあるが、配偶者もマジメなため各地で悲劇が。
実話を３つほど紹介しましょう。男がバカなのか、女性が賢いなのか。

１、密輸摘発率１００％

公務員のダンナがギター好き、国産を買いまくり、みるみる本数が増加。
一回り下の温和な女房、さすがに呆れダンナに上限２０本（エライ！）と厳命した。
彼の努力はここから始まった。高い外国製ギターへのすりかえ作戦。

人に貸すというフレコミで朝持ち出し、夕方楽器屋で下取りに出し外国製にチェンジ。
もちろん細部までソックリなヤツを買って帰るわけです。何食わぬ顔で帰宅。
バレっこないと思っていたらしいが、すぐバレる。女房様の証言が全てを語る。

「あたしが掃除機かけてると、そのギターのそばに行く時だけ妙な空気を出す」ですと。
そりゃそうだ、ボーナスほとんど投資してるんだもの。冷汗くらい流すでしょ。
ヤツは作戦を変更、部品のみ高級品に換えるという第二案を採用してみた。

これも数日でバレた。「明らかに弾く回数が増加した」ですと。笑っちゃうなー。
その次は「弾きたかったので友人から借りた」作戦。これは即日バレた。
「借りた、じゃなくて、買った、でしょ？」と優しく冷たい目で言われ、即座にゲロった。

大したものである、と男は思うが、女性には不思議でも何でもないらしい。
「そんなのソッコー分かるよね、アンタたちバカだねー」と宣う。土下座。
彼女の家庭内楽器密輸摘発率は百発百中である。成田で雇ったらどうだろう。

２、９階から投げ捨てればギターは真っ二つになる

懇意の修理屋から聞いた。市価６０万のギター、ボディ真っ二つで持ち込まれた。
依頼主が語るには、金額を知ったカミさんが激怒、９階から投げ捨てたとの話。
購入後まもなくの惨事だったらしい。見事に修復されたが修理代１２万。

持ち帰って土下座したのはもちろん亭主のほうである。不思議だ。
カミさんは「オマエがそこまで下手にでるなら今回は勘弁する」という態度だったそうな。
この話を聞く女性はみな同意する。男にはその論理が分からぬ。不思議だー。

３、天災が真の天災と化す

あの日、運悪く彼は自宅にいた。午後２時半すぎにグーラグラ、女房と慌てる。
運悪く彼は、古いケースに入れて偽装した逸品ギターの傍にいた。
高級ギターの塗装は傷がつきやすくネックは折れやすい。つい押さえてしまった。

大混乱の週末を過ぎ、しばらく経過。ある日女房がふと話し出す。
「あの時さー、あのギターだけ押さえたよね。何で？」
シラを切り通せる如才ないヤツはそもそもギターなんか弾いてない。自白する。

購入資金の出所が少々アヤシイ方面であったため、大争議に発展。
ギター１本に端を発し、連合赤軍の総括みたいな吊し上げにあったらしい。
女房様がしばらくお帰りにならない事態にまで発展。合掌。

……１と３に関しては、女房様各位から私まで御諮問がございましたですよ。
御機嫌伺い的なお電話に、さりげなく誘導尋問を入れてくるんですよ。
アタシの株が更に下がっていくヒュルルルという音が聞こえるわけですよ。

お前らなー、もう少し清貧を装ってくれんかね。俺と違ってスッ堅気だろ？
社会的地位もそれなりにあるオッサンが、なんでギターになるとそうなるのよ。
え？　俺のせい？　コノヤロ、じゃあ俺に全部預けに来い。永久貸与しろ。

いい大人なんだからさー、ヒトのせいにしないで、購入を自制しなさいよ。
大体ね、なんで家人にその話が伝わって、アタシが説教されるのよ。
アタシの悪事がバレたときの百倍叱られるのよ。言い返せないわよ。

私の名を出すと、女房各位の矛先が私に向くという風潮があるようだ。
まるで避雷針である。あ、昔『避雷針』って曲をライブでやってたからか。
ヒドイものだ。神も仏もない。ではそのうち『濡れ衣』という曲を作ろう。蟷螂の斧。