Nicotto Town



『線路は続くよ』

# 春の足音



窓の外は雪のホーム。

駅舎の向こうに見える街も、降り続く雪に煙っている。

暦は春を告げても、この街の冬は終わらない。

通りかかった車内販売員からお酒を受け取る。

『雪見酒ですか?』

答えようとした時、発車のベルが鳴った。


『わ~!降りますっ、ちょっと待って~っ』

後ろの座席から、慌てた若い女性の声。

閉じかけたドアが再び開く。

『すみません~。ほら、あなたも早くしたくしてよ』

『待ってくれよ。そもそも此所は何処なんだい?』

窓の外を見回し、男性が言う。

『知らないわよ。降りるはずだった駅より、大分先なのは確かね。あなたがいつまでも寝てるからよ』

『起こしてくれたら良かったじゃないか』

『わたしだって寝てたのよ』


身支度しながらバタバタと、二人がドアのところにやってくる。

『急いでくださいな。発車の時刻も過ぎてますので』

車内販売員が言う。

『本当にすみません。この人ったら、本当にねぼすけで』

(いや、あなたさっき、自分も寝てたって言ってませんでしたか?)

そう言いたげな顔で苦笑する販売員。


二人が汽車を降りる。

『これからどうするんだい?別の汽車で戻るかい?』

『もうこの街で良いんじゃない?また寝過ごすのが落ちよ。大体、何度目だって思ってるのよ』

『まあ、春眠暁を覚えずって言うくらいだからな』

『うまい事言ったつもり?』

仲よさそうに手をつなぎ、ホームをゆく二人。

女性のコートのポケットから、何かがこぼれ落ちる。


淡い光がこぼれ落ちたその場所は、雪が消え、小さな花の芽が顔を出す。


やがてドアが閉まり、汽車が走り出す。

淡雪の舞い落ちる、白い街。


『この街が春色になるのは、もう少し先かしらね』

『そうですね、あの二人ですから』


汽車は走り続ける。

移りゆく季節の中。


次は、どんな景色に出会えるのだろう。



つづく





(#^.^#)















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2016/02/05 13:27
今日は~♪

わぁ~\(^^)/~今回も~素敵なお話~♪

おっちょこちょい~で、ズボラな
目くそ、鼻……モトイ…どんぐりの背比べ夫婦さんたち~w

「まるで我が家の事の様」と、
少々~胸が、チクッとしながら、読み進めて行ったら~

最後の「女性のコートから、何かがこぼれ落ちる…」から
素敵な~ファンタジーに変わって~
胸が、熱くなりました^^

彼女ら(かかあ天下っぽいのでw)の性格のせいで~
この街の冬は、あけないのかな?w
そもそも~降りるハズの街は、大丈夫なんだろうか?と
クスっとも笑えて~素敵な気持ちになりました^^

本当に~素敵なお話を作るのが、うまいですね~。



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