Nicotto Town



『線路は続くよ』

# 老人と酒



小さな無人駅

旅支度の老人がひとり、ベンチに座っていました。


『あっ、いた。おじいさん、今日はお店お休みなの?』

ひとりの少女が老人に話し掛けます。

『お酒を買いに来たら閉まってるから』

少女の指さす先は、駅前の寂れた酒屋。

閉じたシャッターには、『閉店しました』の文字。


『ああ、もう店じまいじゃ』

寂しそうに老人が言います。

「せっかく来たのに~』

『酒なら、大通りのコンビニあるじゃろ。こんなところまで来んでも』

『お父さんがね、此所のお酒じゃないとダメだって言うんだもん』

『ほう。奇特な人もいたもんじゃ』

『お父さんはね、此所のお酒が大好きなんだよ。いつもはぼけっとした顔してるのに、此所のお酒を飲んでる時だけは凄くしあわせそうなんだよ。それにね、此所のお菓子、美味しいのがいっぱいあるし、わたしもこのお店大好き。あのね、お父さんが、お駄賃にお菓子買っても良いよって言ってくれたんだよ』



汽車が駅に着く

寂れた無人駅

窓から見えるホームには、ベンチが一つだけ

大きなバッグを足元に置いたおじいさんと、小さな少女が、駅前の閉まったお店の方を見ながら話をしている。

『この汽車に乗るのかな?』

通りかかった車内販売員に声をかける。

『どうでしょうね・・・』


『あの、この汽車にお乗りですか?お乗りでしたら、まもなく発車しますのでお急ぎください』

車内販売員が汽車から降り、声をかける。


少女が驚いたように振り向く。

『え、おじいさんどこか行っちゃうの?お店は?』

『どこにも行かんよ。ちょっとひなたぼっこをしたいただけじゃよ』

そう、少女に行ったあと、笑顔で振り向いて言う

『すまんね、わざわざ声をかけてもらって。だが、わしは今から、店を開かにゃならん。このお嬢さんに、うまい酒とお菓子を見繕ってやらねばならんからの』


ドアが閉まり、汽車が走り出す。

『おじいさん、何だかうれしそうだったね』

戻ってきた販売員に言う。

『そうですね』

『でも、美味しいお酒ってどんなのだろう。飲んでみたかったな』

『そうおっしゃるだろうと思って、仕入れておきましたよ。はいどうぞ』

『さすが、ぬかりないわね。ありがとう』

販売員からお酒を受け取る。

『うまい酒とな。わしにも一つくれんかね』

『でたわね、呑兵衛フクロウ。仔猫たちは放って置いて良いの?』

『ほーっほっほ』


汽車は走り続ける。

次どんな景色が待っているのだろう。



つづく


(#^.^#)








アバター
2016/02/01 00:04
今晩は~♪

わぁ~\(^▽^)/~待ってましたぁ~♪

大好きな~「線路は続くよ」シリーズの最新作ですね~^^

今回は「老人と梅」イヤ…w…「老人と海」ならぬ
「老人と酒」ですね^^

最初は、どうみても「汽車を、待ってる風」のおじいさん…
でも~少女の言葉に、まだ自分のお店のファンが一人でも
居てくれるなら…と思いとどまったのかな~^^

本当に素敵な~お話です^^
本来お酒は、ほのぼの皆仲良くする為~皆リラックスする為の物の筈…
どこかの酒乱のDV男にもこのお話を、読ませてあげたいと思いましたw

天国のヘミングウエィ~さんも
このお話を、読まれたら~ウィスキーでも飲んで~
「良い話ぢゃ~ウェイ~b」って言うかな?


アバター
2016/01/31 21:15
なんだろう、、、読んでいるうち、鼻の奥がツーンとして、目がうるんできました。
~ゆさんワールド、大好きです♪
ステキなお話を、ありがとうございました(^^)



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