9月期 小題 満月/ 「女狼」
- カテゴリ:自作小説
- 2015/09/30 23:40:05
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1016286&aid=60453070 よりの続き
◇◆◇◆◇◆
夫、武雄の母が他界した。
散々疎遠にして嫌っていたように見えたが、やはりその死は痛ましいのか、主を失った部屋で彼女の遺品を胸に抱いて項垂れる夫に、美也はどう声をかけたものか、悩みながら傍に寄り添う。
「あなた……」
背中に手を添え、一緒に月明かりの部屋で立ち尽くす。
大丈夫? と聞こうとして、違う言葉を口にしたのは、夫以上に美也自身が驚いた。
「その手鏡、私にいただけないかしら?」
「え? 君が? これを?」
「お義母さんの形見として持っていたいの」
……そんなつもりなどなかったのに。
武雄は手鏡を手放さないだろう、美也は思っていた。
だからそんな事など本当は思ってもいなかったはずなのに、手鏡を胸に埋めるように抱きしめる武雄に、ついと言葉がこぼれたのだ。
けれど、形見として。そう言われれば武雄に拒否する事はできない。
美也は実際、母の面倒をよくみてくれた。
父が他界してからというもの、寝食も忘れ鏡に向かい続け、声をかけても返事も無ければ美也の顔など見もしない。
労いひとつ無い中で、抜けて散らばる髪を集めて掃除をし、いつも母の周囲がきれいであるように努めたのだ。
何よりも、手鏡など男の武雄が持つような物ではない。
武雄から手鏡を「うん」と手渡されて、美也は少し驚いたが、すぐに笑む事ができた。
「ありがとう、あなた。大事にするわね」
―― だけど、あなた……
私、気付いていたのよ。
武雄がすっかり寝入ってしまった寝室で、満月の光が窓から差し込み美也を照らす。
家族に背を向け、ひたすらに鏡に向かい髪を梳る美しい義母。齢八十を超えたというのに、その艶は褪せる事がなかった。
その様子を気にしては覗く夫のよこがお。
―― あなた、どんな目をしてお義母さんを見ていたのか、自分で気付いていないでしょう?
女の業の深い母と、その業に寄り添っていた父。
業の深さにあてられて思春期を過ごした自分は、すっかり女性が苦手になってしまったのだと打ち明けながら、
『けれど君は母とまったく違う。爽やかで……何というか……』
明るい太陽の下、新緑の中、爽やかな風を連れ添い走る笑顔は陽に焼けて。
日焼け止めと薄い色のリップクリームを塗る以外は化粧も知らない、少し荒れた肌。
そんな自分に、照れながら『君となら……』小さな声で交際を申し込まれて、嬉しかった交際の期間。長い
長い間触れ合う事を戸惑い続け、初めて結ばれた夜に結婚を申し込まれた。
武雄の両親は彼が案じていたほど、美也に重苦しさなど感じさせず、すぐに馴染む事もできた。
幸せな日々。
それが壊れたのは、義父が他界し同居が始まって数週間後、義母の様子がおかしくなり始めたあの頃だろうか。
亡き夫の為に、ひたら髪梳る母の背中。白いうなじ。皺の寄った手の甲さえも月明かりの下で白く眩む。
『いい年をして』と呟きながら見つめる瞳の中に浮かぶ、もうひとつの、真逆の真意。
気付きながらも堪えてこれたはずだった。
そうしてゆけるはずだった。
なのに何故、あの日自分はあんな事を義母に言ってしまったのだろう。
『お義母さん、白髪染めを買うのはもうやめましょうね』
え? と振り返った義母に、美也は微笑み立ち上がった。
部屋を去る嫁を呆然と見送り、しばらくは言われた意味も解らなかったが、数日の後にそれは理解された。
鏡台を探しても、探しても、白髪染めが出てこない。
探す合間にも頭の肌から白い物が伸びてくる。
梳り落ちた髪に、白い物が増えてゆく。
染めなくては。
…… 染めなくては ……
民恵が、引きこもる自分を外へと駆り立て動かしたのは、ただその想いだけであった。
武雄の寝息を隣に聞きながら、美也はそっと手鏡をかざす。
丸い銀の映し皿の中、窓の外に煌々と萌える満月が美也を見つめている。
美也は枕の下に隠していた紅をそっと取り出し、唇に這わせた。義母の鏡台から持ち出した、赤椿のような色。
産まれて初めて朱に彩られた唇が、月明かりに照らされてちらりと光る。
…… 染めなくては ……
次は、誰が、何を?
~ 了 ~
読んでくださってありがとうございます^^
美也の場合は、自分が女に目覚めた時期に
子供がとうに巣立っている、というのが救いになります^^;
男より女の方が、こういう業は深いのでしょうね…
美也さんの変化を見て見たい気もしますが・・・
深いというより陰鬱で不快…(・∀・;)
と書いてて思ってしまったので、それだけじゃない物があったのなら
嬉しいかぎりです^^
読んでくださってありがとうございました^^
こわいというより、陰鬱なだけ…とも思ったのですが(^_^;)
怖さみたいなものもちゃんとあったのなら嬉しいかな、と^^
読んでくださってありがとうございました^^
読んでくださってありがとうございます~
もうちょっと陰湿マザコン度を高めて、員隠滅滅に展開させれば
もう少し面白くなったでしょうか…(^_^;)
文字数足りませんww
お坊さんになってしまっては馬券も買えないし
世俗から断たされなければならないので、
かいじんさんはどうか悟ったりなさらないでくださいー><
読んでくださってありがとうございました^^
やっぱり、という事はある程度バレちゃってましたか(゜_゜;)
同居さえしなきゃお嫁さんも旦那の母親への感情なんて知らずに済んだでしょうに、ねぇ
この夫婦の子供が既に大人になっている設定が唯一の救いです←自分で言うな(^_^;)
読んでくださってありがとうございました^^
などと坊さんの様な事を思ってしまった^^
お嫁さんの嫉妬はやがて狂気に(涙)
お母さんのようになりたい=真に愛されたい。一番の人になりたい。
こわいけれど切ないです;ω;
一年ぶりなのに暗いよ…( ̄△ ̄;)
誤字脱字は数日内に直します!><