「蝉たちの空」
- カテゴリ:30代以上
- 2015/08/16 10:34:54
「やっととれたぞ」
少年は、虫かごをのぞき込みながら言いました。
虫かごの中には一匹の蝉。
お昼からずっと、雑木林の中を探し回って、やっと捕まえた一匹でした。
「もうこんな時間だ、早く帰らないと」
気がつけば、もう夕暮れ時。
木々の間から見える空は、赤く染まりはじめていました。
「ええと、帰り道は・・・」
少年が、暗くなり始めた林の中を見回したとき
「返して」
林の中から声が聞こえました。
「だれ」
少年は驚いて振り返りました。
そこには、こんな林の中には似つかわしくない、少女が立っていました。
「返して」
手を差しだして、少女が言います。
「この蝉はぼくが採ったものだ」
少年は、虫かごを抱えて言います。
「返して」
ただそれだけを繰り返す少女。
少年は、何だかとても悪い箏事をしているような気持ちになって、虫かごを差し出しました。
「ありがとう」
少女は虫かごを受け取ると、蓋を開き、そっと、蝉を両手で包み込みました。
(どうするのだろう)
少年が見ていると、蝉を包み込んだ少女の手が、ぼんやりと光り始めました。
やがて少女が手を開くと、ぽとり、と何かが落ちました。
蝉、でした。
もう、動かない蝉。
「殺したのかい!」
驚いて、少年が言います。
「脱皮しただけ」
「大人になった蝉は脱皮なんかしないよ」
そんな話は聞いたことがありません。
「あなたが知らないだけ。ほら」
開いた少女の手のひらには、淡く光る蝉がとまっていました。
「もう、旅立ちの季節だから」
すっかり暗くなった林の中に、ぼんやりと光る木々。
見ると、何匹もの光の蝉たちがとまっていました。
言葉を無くして立ち尽くす少年。
やがて光の蝉たちは、少しずつ、森を濡れ、空に飛び立ちはじめました。
光の蝉たちがすべて飛び去り、林の中が闇に包まれたとき、少年は、はっ、と我に返り帰りました。
「どうしよう。なにも見えない。これじゃ帰れないよ」
少年は泣きそうになりました。
「こっちよ」
声の方を振り向くと、先ほどの少女が手招きをしていました。
肩にとまった蝉が、ぼんやりと光っています。
「付いてきて」
ぼんやりと光る少女の後ろを歩く少年。
木々の切れ間から見える空を、たくさんの流れ星が彩ります。
「流星群だ」
「あれは蝉たちよ。こんな星の空より、もっと広い空に旅立ってゆく蝉たち」
「あれが蝉たち・・・どうして・・・」
立ち止まる少年を振り返って少女が言います
「離れないで」
「あ、ごめん」
「あなたが返してくれたから、返してあげてるだけだから、来ないならあとは知らないよ」
「蝉を返さなかったらどうしたの?」
「ふふ」
少女は、いたずらっぽく笑いました。
おしまい
(#^.^#)
わぁ~素敵~♪
ステキなファンタジーですね^^
蝉取りから~ペルセウス流星群に来るとは、
想像も出来ませんでした。
今~読んでいて、目の前に、虫とり少年の様子から~
不思議な少女…暗転から~蝉の魂(?)の光に流星群と
美しい~映像が、次々と、目に浮かびました~^^
蝉は、1週間しか生きれなくて~
その死は、怖いしあまり見たく無い物けど…
「それは「死」では、無くて、次の段階へ行く」って考えもステキですね^^
暗転して 不安な中に、「自分が、採って、連れて帰ろうとしていた
蝉さんに、助けられる。」って所も素晴らしい~^^
最後の~フィナーレの流星群も、とても美しいのでしょうね~^^
(肉眼では、まだ1度も無いけど…w)
ステキなお話を、読ませて頂いて~
家に帰って来て、早速~近所の連中に嫌な思いを、させられましたけど…
柔かい~リラックスした気持ちになりました^^
ホラー風味にしようと思ったのですが・・・
ちっとも怖くありませんね(笑
(#^.^#)