Nicotto Town



ありえない要求。

ちょっと裏で仕事をしていたら受け付けノベルが鳴らされたので言ってみると、ドイツ人女性が立っていた。

「ちょっと普通じゃないお願いがあるんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「ハンドタオル、2枚ほど貸して貰えない?」
「ハンドタオルですか? 少々お待ち下さい」
 その日はたまたま子連れ客がとても多くて、きっと子供が部屋を汚してしまったとか子供用にタオルが必要になったとかそう言う理由だろう、と何の疑いも持たずに奥へ引っ込み、タオルを持って戻って来たのだが、
「お客様のお部屋番号頂戴できますか?」
「私、ここの客じゃないんだけど」
「は?」

  え…何それ? 泊まってもいないのにタオル借りに来たって事?

 その時点で一体何が起こったのか頭が真っ白になった。
 だってそんなのさすがにありえなくない? どっかの一流ホテルとかならいざ知らず、こんなちっこい家族経営のホテルが宿泊客以外の便宜を図るなんて、道を教えるとか程度ならいざ知らず備品を貸してくれ?
「あの…どの程度のお時間でお返し頂けるんでしょうか?」
「明後日には返すわ」
「明後日!?」
 待て待て待て待て、今ちょっと緊急に必要だから拭きたいとかそう言うんじゃないの?
「いや、さすがにそれは…」
「もちろんただとは言わないわ。代金は払うし必要な情報は何でもおいて行くし」
「いえ、そう言う問題ではなくてですね…」
 いくらなんでもそんなもん貸せるわけないじゃん。
 で、事情を訊いてみれば、見付けたホテル ( 多分やっすいドミトリー ) にはタオルが付いてなくて、でも自前のは持って来てないので困り果ててしまったのだと言う。
「あの…今日は土曜日なのでスーパーもまだ営業してますし、そちらでお買い求めになりました方がよろしいのでは…」
「新しいタオルじゃ全然水分拭きとってくれないからいやなのよ」
「確かにその通りではございますが…」
 いや、でもね? まったく無関係なホテルに来てタオル貸せって、それはちょっと無理があるでしょう。
 なのに彼女はひたすら粘る。
「じゃあ買い取るわ。それでいいんでしょう?」
「いえ、そうはおっしゃいましても私の独断では…上の者に相談致しませんと…」
「じゃあその上司に今すぐ聞いてよ」
「はあ…」

  えええええ? そんな電話掛けたら私が怒られるに決まってるじゃん…。

 と、出ないでくれ出ないでくれと内心神に祈りながら携帯に電話してみたら運良く留守録音が。
 内心ほっとした気分ながらもいかにも済まなげに
「申し訳ありませんが繋がりません」
 ところが彼女はまだ粘る。
「何でダメなのよ」
「いえ、当ホテルのお客様であれば便宜を図りますのがこちらの職務ですのでお渡しできますが、しかし外部の方となりますとそれはさすがに…」
 あなた自身「ちょっと普通じゃないお願い」って自覚ある発言から始めただろ。
「貸してくれるってわざわざ持ってきて現物もここにあるのに何が問題なの」
「確かに現物はございますが、本日は明日チェックアウトの団体のお客様でほぼ満室状態でして、明日の午前中にほとんどすべてのタオルを取り換えなければならないのですが当ホテルのような小さなホテルでは毎日選択して何とかまわしているような状態で、全室2回分ものタオルは常備していないんですよ」
「客が相手なら貸せるのにそうじゃなきゃ間に合わない理由は?」
「お客様のご要望とあれば対応しないわけにはいきませんので、時間をずらして便宜を図らざるを得ないと言うだけのお話で、しかも3日間お貸しすると言うお話ともなりますとさすがにタオルが不足する事態が予想されますので…」
「だからお金は払うって言ってるでしょ。10ユーロ、これでどう?」
「金額の問題ではないんです、ご了承下さい」
 っつか、留守を預かってるに過ぎない受付係にそれがどんだけ無理難題蚊、ほんとにわからないのか、この人は? 多少吸水率が悪くてもその値段出すならしょうがないから新しいタオル買って済ませようって発想に頼むからなってくれよ。

 っつか、何でうちのホテルなんだ、お金で解決できると本気で思ってるんならもっとでっかいホテルとか行けばいいだろ。

 結局私が頑として譲らなかったので諦めて彼女は帰って行ったが、最後はものすごい逆切れ状態で礼儀もへったくれもない態度で ずかずか 去って行った。

 果たして彼女がその後、他のホテルでタオルを手に入れられたのかどうかぜひ知りたいところだ。
 




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