✪ アクアリウム
- カテゴリ:30代以上
- 2015/05/30 22:39:38
今日の朝刊に割引券が入っていた。
最近できた水族館のものなのだがちょっと変わっている、
色画用紙に刷った手作り風のもの。
私はその割引券を手にとって掌に乗せた、
ほのかにインクの匂いがする。
文字はスクリプトでアクアリウムと書いてある、
住所をみると街外れのさびれた場所だ。
「こんなところに水族館が出来たのか?」
不思議に思いながらひかれるように出かけた。
時間は夕方になり建物は古めかしく黒ずんでいる、
しばらく躊躇したあとで恐る恐る扉を押し開けた。
ぼんやりと灯る白熱灯に照らされた廊下は冷えびえとしている、
鈍色の石の床と黄ばんだ白乳のタイルを施した螺旋階段が見えた。
しかし廊下の先は暗い陰の中に沈み、
何か海の底にいるような錯覚をして不安になった。
一方で好奇心に急きたてられた私は、
階段の傘の滴をこぼしながらゆっくりと足を動かしていた。
最上階は灯りもいっそう暗く入口らしきところへ、
暗室か舞台の袖へもぐりこむかのような厚地の幕を垂らしてある。
チケットは販売機が置いてあるだけの殺風景なもの、
案内人や係員の姿は見あたらない。
「どうなっているんだ?」
私はそっと頭だけ暗幕の中へ入れてみて中を覗いた。
闇があるばかりではじめは何も見えなかった、
水槽らしきものもなくその空間がどれくらいの広さかもわからなかった。
しかし、そのまま瞳を凝らしているうちに少しずつ暗さに慣れた。
青く煌く硝子球がふたつ中に浮かんでいるのが見えた、
実際には黒い布で蔽われた台の上に並べて置いてあるだけだ。
私は暗幕の中へ入り青い硝子球のあるところへ近づいていった。
それはどうやら双眼鏡のようなものらしく、
覗いてみると青い水の世界が広がった。
透通った青さの中を気泡が水銀のように立ち上り、
ゆるゆると鰭を動かしながら魚が漂っている。
水底の岩礁に咲く花のように見えているものもまた、
小さな魚たちの群れだった。
青玉のレンズの中で魚たちは蒼穹を飛ぶ、
人工の白い砂漠に影を落として漂う飛行体だ。
「これがアクアリウム?」
呆気にとられてレンズから目を離した私は、
思いがけずに誰かの射るようなまなざしを感じた。
慌てて周りを見渡したが、
暗幕に閉ざされた闇があるばかりである。
そこでもう一度、青玉のレンズを覗きこもうとしたとたん。
私は、はっと息をのんだ。
それは椅子に腰かけた一人の少年の目だったのである、
少年は暗闇の中で青いまなざしを揺るがせていた。
暗闇にいると目が慣れるのか
うっすらと色々と気配を感じる
青いまなざしでシグナルを送る少年
大丈夫だよ、ここだよ・・・
こっちだよ!と隣りには愛くるしいイルカが寄り添っていそうですね^^
一瞬、背筋が寒くなりましたが^^;
不思議の世界に、また入ってしまったブラボさんの後を追って
私たちも同じ世界へ~~
面白いお話をありがとうございます~今夜、不思議な夢をみそうな気がします*^^*