幻想断片：石物語 お出かけだ！(1)
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シャトンっ、検問が…

聞くが早いか横道に飛び込む、

うわっ、

ビルの合間の幅はジャガーの車幅より狭い、
…ハズだったが何事もなく進んで行く。

あ、あれっ？

わたしは車じゃないから、それにダイエットしてるもん～

いや…

(それは関係ないでしょ？)っと、心でつっこみを入れていると、

後ろの方で激しい衝突音が、
後を追いかけてた市警のパトカーがビルの角に接触して
挾間ってしまっているのが見えた。後続のパトカーが更に…

(…うわぁ、市警に恨まれそう、)


近づいて来る前方の通りの出口を
市警パトカーが過ぎり、塞ぐ形で停車すると
警官達が降りて、車を掩体にして手に拳銃を構え、

止まれ！さもなくば撃つ！
大音量でスピーカーが喚く

すぐさまジャガーは更に細い横道へ逸れて行く、



馬鹿な、あんな所に車が通れる道は無い…
いや、出口塞げ！

また通りへの出口をパトカーでふさがれてしまった。

…が、今度はジャガーは止まらない。
いや、スピードを上げて突進してゆく、

掩体にした車体からあわてて遠ざかる警官達、


シャトン、どうする気だ、わぁ、

眼前にかざした手に、身体に、どっと風が吹き付けて来る。
フロントウィンドーが割れたのか？

座っていたはずのシートの支えが、背もたれが背中を押す感覚が無くなり、
脈打つ温かい何かが膝の間にあって、力強く引っ張られてゆく感覚がする。


リュビ、しっかり掴まってて、

目の前のふさふさ揺れているなにか温かいものにしがみつく。

リュビの身体の下にある温かな肉体が力を溜める様にしなって、
次の瞬間には下から突き上げられる力を感じる、

宙に投げ出されそうになって、リュビは更に腕と足を使ってしがみついた。

すっと落下する感覚がして、

ガシャン、グシャリと潰れる音がした。
大きな毛皮の真下には屋根の潰れた車らしきものがある。

車体から少し離れた地面に、
警察官が腰を抜かして、視線をこちらに向けていた、
拳銃を握った手は横の地面に置かれて、こちらに向いていない。


次の瞬間、再び強い力で空中へ投げ出され、落下する感覚。
次は固いアスファルトの地面にふわりと着地、
すぐ横っ飛びにステップして向きを変え道路を走り始めた。


ほんの一瞬居た着地点に拳銃の弾が跳ねて、
道路の向かいの大きなショーウィンドーが粉々に割れる。
我に返った警官達が発砲したのだ。

大きな虎の背中にしがみついてるリュビの耳朶を、
間近をかすめ過ぎた弾丸の音が打つ。

リュビの身体の下にある獣の肉体が力強いリズムを刻み、
力を溜めて解き放つ、また横っ飛びに方向転換し、広い通りへ躍り出た。

通りを走っていた車の急ブレーキ、クラクションや怒号が聞こえて来る。
2車線道路の車列の間を縫って、大きな獣がリズミカルに走り、
右に左に車線を変え、車のフェンダーを斜めに飛び越し、何台も追い越して行く。


広いラウンドバウトに飛び込み、前後に車両が見えなくなったところで、
虎はジャガーに変身した。

しがみついてた姿勢のまま、突然革張りの座席に移されて、
ゴツンとリュビの額が固いハンドルに当たった。

うを？

ごめん、大丈夫？ ぷ、くくく…


醜態をわらわれて不機嫌になった。

まだなのかい？

もうちょっとで着くわ。
いっぱい走ったからお腹空いちゃった。

何か食べるのかい？

うん～、そうね、江戸前とか、和風ハンバーグとかいいわねー
急ぐわね。



頭上をヘリのローター音が行き戻りして、次第に近づいて来る。

狙撃されるのはヤダな～痛そうだし、顔出さないでね、

わざと撃たれて死んだふりしたらどうかな？

ふりでも捕まって忽然と消えたりしたら、
ますます追っ手が厳しくなるわよ～

きっと懸賞金の額も跳ね上がるわね、うん、


今日の壊されたパトカー分はもう上乗せされてるだろーなぁ…

あれやったのはシャトンなのに、なんでこっちに付けられちゃうんだ、
地味に徒歩移動の方がマシだったなー

理不尽なことへの怒りがふつふつ沸き始めたところで、
車は地下駐車場の入り口に滑り込んだ、


気がつくと暗い斜路の途中に立っていた。
いつものぴったりしたライダースーツの着心地は無くなっていて、
ゆったりしたフォーマルスーツに着替えていた。

袖の肘辺りを引っ張られて、通路の端にある歩行者路へ移動する。

振り向くと色調を抑えたフォーマルな衣装に身を包んだ
背の低い女の子が立っている。
館で見た少女とは全く別人の様だけれど…


花柄の入ったポーチを開くと、黒っぽいカードを取り出して、

これ、預かってて、お店の支払いの時に使って下さい。
わたし名義のカード、支払いは母親口座からの家族カードなの、

え？母親が…？

ちょっと困ったな～って表情の笑顔が現れて、

事情は後で、食事中にでもしましょう。
こっちは借り物だから無くさないでね。
あなたの身分証明書、兼、運転免許証、

以前わたしの住んでた屋敷に居た執事さん、
今は別の方のお屋敷にお仕えしてるんだけれど、今日はお休みなの、

で、わたしに個人的に付き添ってもらってるとゆーわけ、
ご本人はお家で一日過ごすと言ってらっしゃったわ。

免許証の写真は…暗がりではよく見えないが、
リュビには似ていない。

駐車スペースを横切って、エレベータのドアが開くと、
明るい小部屋の奥の大きな鏡に、
フォーマルな衣装を身に着けた10代後半くらいの少女と、
壮年を過ぎたくらいに見える禿頭の男性が並んで映り込んでいた。

んー、違和感があったのはこれか、…頭のうえが寂しい、

エレベータが1Fに着くと、
人が溢れるショッピングモールの通路だった。