Nicotto Town


聖典研究・善根功徳


稲むらの火 全文 防災のために

これは江戸時代のお話です。


紀州和歌山藩に広村(ひろむら)という小さな村がありました。

この村に浜口五兵衛(ごへえ)という長者さまが住んでいました。

五兵衛は村の人たちから尊敬され、そして愛されていました。

人々は五兵衛のことを親しみを込めて、”おじいさん”とよびました。

五兵衛の草ぶきの屋根の大きな家は、

海を見下ろす小さな高台のはじに建っていました。

そして、五兵衛は家のまわりにある田んぼでたくさんの米をつくっていました。

広村の百に満たない家々は、五兵衛に見守られるように、

海と山にはさまれたせまい土地にへばりつくように建っていました。

ある秋の夕方のことです。

五兵衛は自分の家の縁側にすわって、村の人たちがお祭りの用意をしているのを、

ぼんやりとながめていました。豊作を祝うお祭りです。

ことしはことのほかたくさんの米ができたので、

お祭りの用意にも力がはいっているようです。

五兵衛はからだの具合がおもわしくありませんでした。

いつもなら村の人たちといっしょに、お祭りの用意をするのですが、

この日は家にいました。

五兵衛のかたわらには、ことし十歳になったばかりの

孫の忠(ただ)がちょこんとすわっていました。

その日は秋だというのにむしあつい日でした。

五兵衛はさきほどから、むなさわぎを感じていました。

「地震だ」

かすかに地面がゆれるのに気づいて、五兵衛がつぶやきました。

人をおどろかすような地震ではありませんでした。

長い、のろい、ふんわりとしたゆれでした。

たぶん、遠くの方でおこった地震だったのでしょう。

家はめきめきと小さな音をたてましたが、

それからすぐにまた、静かになりました。

五兵衛は下の村を見やりました。

村の人たちは、なにごともなかったかのように、

祭りの用意をすすめているようです。

五兵衛はそのあと、なんの気なしに目を海にうつしました。

すると・・・・・・

海が、いつもとはちがうように見えました。

風とは逆の方に波が動いているのです。

波は海の沖の方へ、沖の方へとしりぞいていきます。

そして、見る間に、そこには、

それまで海の底だったところがあらわれはじめました。

うねったような砂のひろば、海藻のからまる黒い岩・・・・・・。

それらは、これまで一度も見たことのない風景でした。

五兵衛はそのとき、あることを思い出しました。

それは、自分のおじいさんから子供のころ聞いた話でした。

おじいさんから聞いた海にまつわるできごとのなかで、

五兵衛はひとつ気になることを思い出したのです。

五兵衛は孫に向かって言いました。

「忠、大急ぎでたいまつに火をつけろ!」

忠が五兵衛の顔を見ました。

「すぐに、たいまつをもって来い!」

忠は言われたとおりに、

たいまつに火をつけると、五兵衛にわたしました。

五兵衛はそれをひったくるようにもつと、家の前にある田んぼに急ぎました。

そこには五兵衛たちがたんせいこめて育て、

取り入れを待つばかりの稲むら(かりとった稲を積みかさねたもの)がありました。

五兵衛は、その稲むらのはしの方から火をつけはじめました。

できるだけ急いで、五兵衛は火をつけてまわりました。

まもなく、稲むらはつぎつぎと炎となって、

天をこがすような大きな火になりました。

沖からふく風がその火をようしゃなくあおります。

「おじいさん、なぜこんなのことをするの!」忠が声をあげました。

忠はからだをぶるぶるとふるわせて、稲むらの火と五兵衛を見ていました。

そして、忠は泣きだしてしまったのです。

むりもありません。いま、赤あかと燃えている稲むらは、

五兵衛や忠やみんなにとって、とても大切な米のついた稲むらなのです。

五兵衛はすべての稲に火をつけると、たいまつをなげすてました。

そして、村人のだれかがこの火に気づいてくれることをいのりました。

山寺の小僧が火に気づきました。小僧はあわてて早鐘をつきました。

ゴーンッゴーンッゴーン・・・・・・

山寺の大きな鐘の音があたりに鳴りひびきました。

村の人たちは、この音を聞いて、はじめて高台の火に気がつきました。

五兵衛の目に、村の方からアリの群れのように山にのぼってくる

村の人たちの姿が見えました。

「おそい。おそい。もっと早くのぼって来い!」

五兵衛には村の人たちのあゆみがアリよりおそく感じられました。

日は沈みかかっていました。

一番最初に村の若者たちが二十人くらいやってきました。

若者たちはすぐに、火を消そうとしました。

「うっちゃっておけ!」五兵衛がさけびました。

「早く、村中の人をここへあつめるのだ!・・・・・・たいへんだ!」

村中の人たちがやってきました。

「来ていない者はいないか」五兵衛はそう言いながら人の数をかぞえました。

若い男たち、男の子たちはすぐになってきました。

そして、元気な女や娘たちもきました。

それから、赤ん坊を背負った母親、

老人たちもどうにかみんな五兵衛の家の前にあつまりました。

あつまった人たちは、なにがおこったのかわからずに、

ふしぎそうな顔をして、五兵衛と燃えている稲むらを見ました。

「おじいさんは気がちがってしまったんだ。こわい!」忠がさけびました。

「おじいさんは、わざと稲に火をつけたんだ!」

忠は泣きながらそうみんなに訴えました。

「そのとおりだ!」五兵衛がさけびました。

「わたしは稲に火をつけた。みんなここへきたか」

その声に村のまとめ役があたりを見まわして言いました。

「みんなおります」

そのとき、五兵衛が沖の方を指さして、力いっぱいの声でさけびました。

「来たぞ!!」

みんなは五兵衛の指さす方をみました。

日がおちた、うすぐらい、はるか水平線のところです。

ひとすじの線がそこにあらわれました。

その線は見ているうちに太い線となりました。

そして、その太い線はみるみる高くなり、大きな壁のようになると、

とびがとぶよりも速くこちらにむかっておしよせて来ました。

「津波だ!」

こんどは村の人たちがさけびました。

ドドーン!!

その巨大な海のうねりは、山々をもとどろかすように重く、

これまでに聞いたことのない音、

百の雷が一度に落ちたような音をともなって、海岸にぶつかりました。

そして、その波は、あたりがなにも見えなくなるような水けむりをあげました。

人々はおそろしさのあまり、悲鳴をあげ、あとずさりしました。

おそるおそる下の方をのぞくと、

村の家々の上を荒れくるいながら通ったおそろしい海がそこにありました。

波はうなりながら沖にしりぞくときに、

海岸から一つの村をひきちぎっていきました。

それからも波は、いく度もいく度もうちよせ、しりぞいていきました。

しばらくそんなことをくり返しながら、波はしだいに小さくなりました。

そして、海はもとにもどりました。

津波が去ったあとには、

投げ出されてくだけた岩や海藻や砂利がのこされているばかりでした。

村はまったく消えてしまったのです。

沖の方に草ぶきの屋根が浮いたり、沈んだりしているのが見えました。

人々は、おそろしさのあまり、声も出せず、ただポカンと口をあけたまま、

その場にたたずんでいました。

「あれを知らせるために・・・・・・」

五兵衛が言いました。

「稲に火をつけたのだ」

はっとわれにかえった人々は、一人また一人と

五兵衛の前にひざまずき、深々と頭を下げました。

五兵衛の目にはなみだが光っていました。




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2015/03/16 18:40
白ちゃん、コメント(つ∀`).+°o*。.’アリガトッ

津波から救われる命が一人でも多くなりますように(-m-)”
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2015/03/16 01:01
やはり命あっての食べ物ですね;;

それにしても巨大な津波はおそろしいです・・
もう平和な日々が続きますように(-人ー)
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2015/03/12 18:40
ひーさん、コメントありがとぅございます☆ 防災教育で多くの命が救われますように。
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2015/03/12 18:39
トマチさん、コメントありがとぅございます☆ 被災者の心の傷が癒されますように。
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2015/03/12 18:37
さきたん、コメント&stp&water(*´∀人)ありがとうございます♪

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2015/03/12 16:43
手塩にかけた稲よりも命の方が大事!皆が生きていれば米はまた作ればいいし・・・
TVで見た4年前の津波の映像が頭から離れません・・・車が家が特殊映像のおもちゃみたいに壊れてく・・
あの中には人間も・・・自然災害ほんとに怖いです(。-人-。)
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2015/03/12 10:53
「高台へ逃げてください」と放送し続けた方を思い出しました・・
4年もたっても心の傷はいえないものですね。
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2015/03/12 00:10
とってもジーンときたお話しでした
ディオたま ご紹介ありがとうございました。 (‿_‿✿)ペコ
3・11もすぎ、来年は5年目早いですね 大震災風化させないようにしたいねSTP&WTR



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