Nicotto Town


てらもっちの あれもっち、これもっち


フィクション:ある王の物語


王は静かに深く考えていた。
2000年も続く血統において、ここまでの決断を迫られた王は、これまでにいただろうか。

何をもって決断すればいいのか。
何が一番よい解なのか。

目の前では配下の閣僚たち6人が話し合いを続けている。
議論しても議論しても結論は出ない。

ため息をつく。
近くに立つ侍従を見た。
普段ならば、腰がすらっとのび太姿勢で、柔らかな声で、所作に対する忠告をくれる彼も、困った顔でこちらを見返す。

そうか。結局、頼るものなどないのだ。
生まれてきたときから感じている孤独感がつのる。

そういえば、先王も、3つの大国から干渉を受け、領有していた地を手放したんだった。あの時も民は怒っていたけれど、先王が民たちを諌めていたな。

そうか、あの時の決断か。
でも、今回のはもっと重大な決断だ。

王は常に孤独だ。

頼るものはない。しかし民のことを考えなければならない。
この国の行く末のことを考えなければならない。
それが王の役目だ。

議論は2時間を過ぎていた。

首相と外務大臣らは、もう戦を終わらせようとしている。
陸軍大臣は、戦を続けようと主張している。

議論は3対3で膠着している。

陸軍大臣の気持ちもわからないでもない。
負けたら、彼らのクビが飛ぶ。

でも、そんなことが問題ではない。
彼らは仲間の死を背負っているのだ。
勝つために戦い、そして死んだ者たちの霊が彼の背後にいる。

しかしな。お前達はわかっているのか。

南の島は蹂躙され、そこにいた最終戦線は全滅したのだ。
そして敵は新型爆弾を落として二つの大都市を壊滅させた。

この王宮の前も焼け野原だ。
10万人だぞ。10万人もの民の命が、首都だけで失われたのだぞ。

そうか。そうだな。結局決められないのだな。
お前達には決められない。

国の行く末を決めるには、国を超える視点を持つものだけが
責任を持って決断できる。

わかった。私はこのために生まれてきたのだ。
この決断をして死ぬために生まれてきたのだ。

彼、「ひろひと」は立ち上がった。

「それならば、私の意見を言おう。私は外務大臣に賛成である。」


皆、こちらを見ている。陸軍大臣は、唖然とした顔でこちらを見ている。

閣僚たちをじっくりと見回した。

一発で決めなければならない。
全員が納得する論理、そして自分の本当の思い。
正直で、誠実で、誰もが納得することば。

「空襲は激化しており、これ以上国民を塗炭の苦しみに陥れ、文化を破壊し、世界人類の不幸を招くのは、私の欲していないところである。

 私の任務は祖先から受け継いだ日本という国を子孫につたえることである。いまとなっては、ひとりでも多くの国民に生き残っていてもらって、その人たちに将来再び起き上がってもらうほか道はない。

もちろん、忠勇なる武装解除し、また昨日まで忠勤を励んでくれたものを戦争犯罪人として処罰するのは、情に置いて忍び難いものがある。しかし、今日は忍び難いものがある。しかし、今日は忍び難きを忍ばねばならぬ時と思う。

明治天皇の三国干渉の際のお心持ちを偲び奉り、私は涙をのんで外装案に賛成する。」


王の言葉は、ラジオで放送され、軍人も民も泣いた。
8月15日、日本は降伏した。



その生き残りのうちの一人の孫が僕だ。
僕も世界人類の不幸を招くことを欲していない。

さて、今日を生きよう。
10万人の屍の上を歩き、一人の決断の未来の中を進もう。




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