10月お題/ススキ(薄)『薄野猫』
- カテゴリ:自作小説
- 2014/10/24 18:03:07
猫は見ていた。青年、楓の腕の中で、黄金色に輝く薄野原の表面を撫でながら去りゆく風を。
楓が自分の胸元まで生えている薄を一本手折り、猫の鼻先をくすぐると、ふんっとくしゃみをしながら顔を上げて物言いたげに彼の目を覗き込んだ。
「旅行ですか?」
ふいに背後から声をかけられ、楓はびくりと振り返る。猫はとっくに気配に気づいていたのか、驚きもしない。
いつから立っていたのだろう。自分と同じ年頃らしい青年に不信を抱き、応えるでなく逆に問いかけた。
「あなたは?」
「僕はこの先の村のもんです。大阪で仕事をしているんですが、秋の祭で帰ってきたんです」
村のもん……地元の人間か、それを聞いて楓の気が緩んだ。
「僕は静岡から一人旅です。あなたの村でしょう、粕屋という宿に泊まってます」
「あぁ、祥子ちゃんの家ですね。僕の幼馴染の実家ですよ」
「そうですか。
それにしてもきれいな村ですね。行き当たりばったりの旅だけど、来てよかったです」
「行き当たりばったりですか、優雅ですねぇ。こちらの方は初めてですか」
「えぇ、まぁ……」
これは話しが長引きそうだ、一人でのんびりしていたかったのに、そう思いつつ語尾が濁った。
しかし地元の人間を相手に無碍にするわけにもいかない。
「幼馴染さんとは仲良しで?
あの宿に年頃の娘さんがいたようには見えなかったけど」
「祥子ちゃんは今あの家に居ませんからね」
「あぁ、貴方と一緒に大阪へ?」
「そうですね……」
なんだ、幼馴染の家と言いながら実際は恋人の家かよ……楓が頭を掻いていると、
「僕と一緒なら良かったんですけどね……」
青年の口調に話しの切れの悪さを感じた。
最初に話しかけてきた彼の爽やかな印象が一転する。
「貴方は、ここで赤い金魚の少女を見たでしょう」
急に何を話しだすのか、首をひねる楓にかまわず青年は続ける。
「祥子ちゃん、死んじゃったんですよ、ここで」
楓の背中にうっすらと寒気が走った。もしかするとこの状況は危ないのかもしれない。適当に話しをすり替えてさっさと逃げるべきだろうか。
林道に停めた車にさっと目をやる。この男の脇を通り過ぎないと車まで辿り着けない。頭の中で逃走路を探す。
「もう十年以上も昔ですけどね。僕より五つ年下でしたから生きていれば……」
青年は楓の心中などかまってくれない。
「それは可哀そうでしたね」
「可哀そうなんてもんじゃないんです。そりゃぁ酷い殺され方で」
「殺され……犯人は……」
「まだ捕まっていないんですよ」
ますますもって嫌な展開になってきた。
初対面の人間にいきなり投げる話しではない。……こいつ本当に村の人間なのか? どっかの病院から逃げ出して来たんじゃないか? 怪しさが頭をよぎる。
「祥子ちゃんがどんな殺され方をされたか、ご存じですか?」
……知らねぇよ! 楓は頭の中で叫んだ。
「こう、胸を切り裂かれてね。祭の日の夕暮でした。少し目を離した隙に外から来た知らない人間に連れて行かれましてね。
大人しくされるがままでいれば命は助かったでしょうが、抵抗したもんでねぇ」
「それは……本当に……」
「でもそのおかげできれいなままで死ねたんですよ」
楓の脳裏に警告灯が光る。気分も悪くなってきて吐きそうだ。
急いで車に戻らなくては。襲ってきても力づくで戻ろう。車に戻ればなんとかなる。
楓が一歩踏み出した瞬間、今まで大人しく腕の中に居た猫が、叫びながら飛び降りて逃げた。
「追いかけなくていいんですか?」
「いや、さっきそこの林道で拾った人懐っこい野良ですから」
話が“祥子ちゃん”から逸れて少しほっとする。が、それもつかの間で、猫の逃げた反対の方向で強い風が吹き、薄が大きく揺れた。
音を立てて渡る風を振り返り見て、楓は息を飲んだ。
いつの間にこんなに陽が落ちたのか。辺り一面を赤く染めつつ夕暮れが始まっている。
薄野原も金色から赤に変わり始めているその中に、少女が一人立っていた。
白地に赤い金魚の浴衣。左右に分けた長い三つ編みが風に揺れている。
いつの間に、あんな所に?
「僕は祥子ちゃんを殺した犯人を自分で捕まえる為に刑事になったんですよ。
そしてやっとここまで……」
少女が現れたのを合図に、青年が楓に一歩一歩にじり寄ってきた。
「待て! 俺は関係ないだろう!」
「酷いなぁ、忘れちゃったんですか?
あの日の祥子ちゃんの泣き顔、胸の血……」
楓は浴衣の少女と青年に挟まれてしまった。
猫は楓の車のボンネットじっと佇み、様子を伺っている。
「俺は……」
だんだん、楓は自信を失ってきた。もしかしたら自分は本当に十年以上も前、ここでこの少女を殺したのかもしれない……冷静に考えれば年齢的に在り得ない事なのだが、楓の頭に計算をする余裕は既に無い。
追い詰められて、少女の体にぶつかりそうになった。……いや、ぶつかったはずだった。
よろめいた拍子に少女に寄りかかったのだが、その体は少女をすり抜け、宙に舞った。
薄野原の先、深い谷底。下の方で落ちた小石の音が響く。
……あぁ、これは相当に深そうだ……
落ちたらやばい、そう思う暇も無かった。
「またあの谷で人が死んでおったぞ」
楓の遺体が見つかったのは雪が降る直前の頃だった。
「またか。もう何人目じゃろうな」
「まぁ、今見つかって良かったわい。雪が降っちゃ春まで気付けんからな」
村の駐在は慣れた口調で本庁から来た刑事に現場を説明する。
「それにしても、粕屋の娘が死んでからあそこはおかしいのぉ」
「沢田の倅といい、何ぞあるんやらしれん」
「犯人捕まえる言うて刑事になったはえぃが、その次の年にあすこで死んでもぉたが……もう十年は経ったかね」
「犯人は現場に戻る言うからなぁ、沢田の倅があすこで犯人の来るのを待っとるのかしれんなぁ」
遠い山に落ちる陽が、金の薄を赤く染め、野原を舞う白い浴衣に夕日の色の金魚が跳ねた。
林道で猫は身動ぎもせず、ただそれをじっと見ていた。
~ 了 ~
あぁぁーーあたしまだ紫草さんの10月のお題作読めてないのにぃー><
先に読まれてしまった…
紫草さん忙しいのに! 読んでくださってありがとうございます~><
この作はただひたすらに、情景だけ意識して書いたので、ソコ褒めてもらえると嬉しいです^^
テンポも、あまり考えてなかったけど…良かったのかなぁ(^_^;)
ともあれ、読んでくださってありがとうございました^^
どきどきした~
情景かな。
夕暮れとか、風とか、人の感情とかが浮かんできて、どきどきしながら読んできました。
落ちていく瞬間、足元が寒くなったのは気のせいだと信じたい^^
テンポよくて、すごく引き込まれるお話でした。
ある程度キャラクター増やさないと100ページは無理ですよねぇ(^_^;)
例えば、01動機(7頁)、02概要(10頁)、03捜査(8頁)……みたいに。
こういうときの読書は、好みの作家のを、ああ楽しかったというふうに読むのではなく、売れている作品がなぜ売れるのか、どういうふうにすれば商品となるのかを念頭においてなさるとよいようです。
こちらこそ読んでくださってありがとうございます><
自分ではそんなに怖くないつもりだったけど^^;
読んでくださった皆さんが怖がってくださって自分でちょっとびっくりでした(^_^;)
ありがとうございます^^
来訪とコメント、ありがとうございます^^
↓の方でスイーツマン氏が >100枚に… と申しているので
何とかエピソード広げられないかと考えてみたら、同じ所に辿り着いています。
いっそ主人公も楓の彼女にしてしまって過去の回想展開で進めてみるのもアリかなぁと。
まぁ…書くかどうかは…気力が続けば…(^_^;)
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
地縛霊です!
若い娘さんは気を付けましょう!(え?)
あたしもちょっと危ない山道とか1人でフラフラするので
気をつけなきゃならんです~
そうそう、うちの方にも姥捨ての由来の場所があったりするので…
話しが違う方向に進みそうなので強制終了ww
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
美しい情景と、
関係のない人を死に追いやる怨念の醜さにぞっとしました。
続編妄想ですが、
楓を想う人が、死んでしまった原因を探しに来て、
最終的に祥子ちゃんを殺した犯人を捜しあてる・・・
とか、面白そうだと思いました。
知らない場所に一人で行っちゃいかんのですね?←
山を一人でうろつくゆきには恐ろしい話ですにゃ~~
そういや近所に谷があるんですけど、よく認知症で徘徊して行方不明になったら、そこにはまって死んでたりしますにゃ~~
近所の人は近づかない場所なんたけどね。。。( TДT)
沢田さんと祥子ちゃんの幽霊2人で協力して
外から来た知らない人間を手当たり次第殺してるんですね。
100人殺したら2人で成仏するとか幽霊のまま幸せになるとか
あるんですよ決まりとか約束とか!
ホラーダメでしたか(^_^;)
滅多に書かない分野ですが、今度から書いてUPる時は冒頭に注意書きします><
刑事のお兄ちゃんはお話しが始まる前に既に亡くなっておったとです^^;
今度はのんびりぽよぽよなお話しを書く予定です^^
読んでくださってありがとうございました♡
最初に変だと思った時に逃げていれば~!!
でもその時にはすでに彼の運命は決まってしまったんですかね。。。
今回、風景描写だけを一生懸命書いたので、刑事さんの死んだ理由とか
ちゃんと設定作ってなかったのでちゃんと書きこみできていなかったのだけど
それが逆に想像できて良かったかも?(^_^;)
ニャン! シリーズ…何て誘惑的な言葉でしょう>▽<
ペンギンの仔シリーズが終わったらまじめに考えてみよう!
この刑事さんも少女に呼ばれて落ちて死んじゃってたんですかね、なかなかあれこれ想像広がります!
ニャンは見ていたシリーズとして、また続くのでしょうか?
ぜひ、期待してます^^勝手に^^;
この展開を100枚に広げる根性と自信がありません(^_^;)
これにどういうエピソードを加えれば100枚に届くでしょう…
読んでくださってありがとうございました~(´▽`)
死んで法律や常識に左右されることなく、
永遠に恋人を殺した犯人を追い続ける…
って書くとなんだかロマンな気がしてきました(^_^;)
読んでくださってありがとうございました~(´▽`)
100枚以上に膨らませて投稿なさってみてください
いいセン行くと思いますよ
刑事のお兄ちゃんがなんで死んだとか、
その後何人の男性が谷に落ちて、とか書けば
もっと迫力出たかのぉ(`・ω・´)キリッ
読んでくださってありがとうございました~(´▽`)
かいじんさんに褒められると、凄い やったぁぁぁ! な気になるのは何故かしら…
読んでくださってありがとうございました~♡
本当の犯人にあうまで、何人も…怖いにゃ~!
これはとても怖かった><
舞台設定と構成がすごくよく出来てて驚きました@@
お褒め頂きありがとうございます。
今回、人物設定をかなりないがしろにして、
お話しの展開と風景に力入れて頑張ってみた甲斐がありました。
その分人間の描写に弱さが残ったような感じは否めませんが…
スムーズに読んでいただけたのなら幸いです^^
読んでくださってありがとうございました♡
流れる風と後の一章 止まった時間が相俟って不思議な匂いのする作品だと思います
画像がイメージ出来るので スムーズに読むことが出来ました。
素敵なお時間を戴き嬉しく思います
ありがとうございました。
色んな想像、ありがとうございます。
風景描写はいつも意識してじっとり書いているつもりなので、
それが浮かんでくるように読んでいただけるのはとっても嬉しいです。
読んでくださってありがとうございました~♡
犯人が「人ではなかったのかも」という発想は想定していなかったのだけど
そういう展開にも繋げられたらまた別の面白さ? があったかもしれませんね^^
コメント&来訪&読んでくださってありがとうございました~♡
ゾゾゾっしてくれてありがとう~^^
旅情ロマンが殺人事件で心霊でした^^;
読んでくださってありがとうございました~♡
また、頭の中に薄の風景や浴衣を着た女の子の姿がくっきり浮かんできました。
猫とススキならのどかな旅行をイメージしてたのに 少女を殺したのは本当に「人」だったんだろうか。
面白く読ませていただきました。
静かなススキ野原を思い描いていたら
殺人事件;;;;;
おせなにゾゾゾッと きましたぞ(T▽T)
自作小説のサークルに入っていて、そこのお題なのですよ~^^
本当は毎月お題が出るのだけど、もう半年くらいサボってました(・∀・;)
映像化! 刑事のお兄さん役はぜひ向井理さんで!(マテ)
読んでくださってありがとうございました~♡
ちょみさん作の小説ですか?
私初めて読んだ~~何かゾゾゾッとした~><
映像化したらいいのにって思いました。^^ゞ
すごいなァ~~次回作あるのかな?^^ゞ
いずれこの林道は心霊スポットになって、
テレビやら怖いものみたさの来訪者が増えて賑やかになって、
寂しくなくなるの……かなぁ(^_^;)
読んでくださってありがとうございました~♡
真犯人に復讐するまで、少女もお兄さんも成仏できないということなのでしょうか。
それとももうそんなの関係なくて、恨みと哀しみだけ残っているのかなぁ。
怨霊と化してしまった二人が、とても哀しいですね;ω;
えーこれ怖くないっしょー
ホラーくないでしょーww
寒くなったら妻ちゃんの肉ま…じゃなくて! ぱいぱいであったまって
幸せ倍増暖かさ三倍増しですな(・∀・)
ちなみに今日ローソンの安納芋まんというのを食べてきました(・∀・)
読んでくださってありがとうございました~♡
ホラー♪
ホラ、ホラー♪
東北の寒い部屋で読む、ホラ、ホラー♪
寒さが倍増しホラ、ホラー♪
肉まん食べてあったまろー♪
プニプニおっぱいみたいな肉~まん、た~べ~よ~♪
作詞 おやじパパ「ちょみさんの小説を読んで寒くなったからおっぱいの弾力の肉まんを食べる歌」