Nicotto Town


うみきょんの どこにもあってここにいない


菱田春草展 その1


 土曜日に菱田春草展(二〇一四年九月二三日~十一月三日(前期・九月二三日~十月十三日、後期・十月十五日~十一月三日)、東京国立近代美術館)にいってきた。
 確か北斎展(混雑しているというので、まだいっていない。平日に行くつもり)の前売りチケットをインターネットで入手しようと探していたとき、前売り券として“猫ペアチケット”という言葉を見つけたことがきっかけだった。どこかで見たことのある、柳の幹のうえに座ってこちらをみている凛とした《黒き猫》(一九一〇年)。ペアチケットは二枚とも違う絵柄らしく、あとの一枚は別の絵だとか。ネットで予約してコンビニで発券した。その段階では、データとして印字されているだけなので、券がどういうものなのかわからない。前回出かけたどこかの展覧会では、結局、この印字された券がチケットになっており、きれいな半券が手にはいらなかった…。今回は会場で半券と交換しますと書いてあったから、そのことについてはうれいはなかったけれども。
 いや、それよりも、ペアチケットを買った段階では、菱田春草のこと、それほど知ってはいなかった。どこかの展覧会で、数点みたきり。個人の展覧会にその程度で見に行くことを決めるのは、今の金欠気味のわたしには冒険だ。けれども猫が好きだからか、つい買ってしまった。いや、後付けになるかもしれないが、なんとなく予感があったのか…。
 チケットを購入したあと、夏に箱根の岡田美術館で菱田春草の《瀑布の図》を見た。そのときのことは八月十五日のここで書いているけれども、滝のまっすぐさ、細長い静謐に惹かれた。そして菱田春草展のチケットをもはや手にいれてあることを、喜んだものだった。
 そして、当日。《瀑布の図》を観た折の心の動きを、ほとんど忘れていた。チケットを買ったときの予感に似たひそかな興奮も、ほとんど覚えていなかった。そんな軽い、何も考えていない頭で展覧会に出かけた。美術館が混むことの多い土曜日だけれど、北斎展よりもおそらく混んでいないだろう、バイトから帰ってきて、疲れていたが、家にいたらごろごろしているだけで終わってしまうだろう…、それぐらいなら、そんなことも思っていた。つまりどこかが疲れていたのか、なにか大切なことをほとんどわすれながら、展覧会に出かけたような感じだった。期待せず…だった。わからない、子どもの頃からの悪い癖が出たのかもしれない。期待しないこと。そうすれば失望しないですむ。
 さて展覧会。入口でチケットを猫に変えてもらう。二枚のチケットを併せて、ちょうどハガキの大きさで、真ん中でミシン線がついていて、切って別々にすることもできる。それぞれに猫の絵。黒猫の《黒き猫》と白猫の《春日》(一九〇二年)だ。黒いほうは後期のみ展示。二枚セットでちょうど黒と白、黒猫のいる柏の秋と白猫のいる梅の春で、対比も素敵なので、切るにしのびなく、絵ハガキとして、とっておくことにすぐさま決める。
(続)




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