言葉は絵葉書になるだろうか。誰かへ 1
- カテゴリ:日記
- 2014/08/17 02:50:32
箱根の小涌谷にある岡田美術館へ行ってきた。前日は真鶴、湯河原で少々遊び、泊ったのは湯河原の宿。朝、チェックアウトをしたあと箱根へ向かう。宿に泊 まった時の情報としては箱根の入り口まで車で二十分、カーナビをセットすると小涌谷まで五十分ほど。距離的に近いことはなんとなく知っていたけれど、うね うねとした山道などだろうから、もっとかかると思っていたなと漠然と思っていた。想像と現実はいつもちがう。カーナビの示した案内では、山を通る感じだっ たが、ほんの少し遠回りをすると海沿いの道を少し走ってからでも行けるので、そちらを通ることにする。これは知らなかった。もう前日の真鶴で海は見おさめ だと思っていたから、車窓からでも眺められることがうれしかった。打ち寄せる波。空はすこし曇っていたから、海の色はいくぶん青さを失っていた。けれども おだやかな夏の青だ。
箱根の温泉街の入り口的な湯本を通って、塔之沢、宮ノ下を抜ける。以前泊ったことがある宿の前を通り過ぎた。なにか妙な気がする。道はさらに山の感じ、 やはり、周りに生える木の感じが、真鶴とも湯河原とも違う。箱根は何回か来ているので、それでも、どこかなじみのある緑たちだ。
木々の間に岡田美術館の看板案内が出てきた。小涌谷まで間もなくだ。この辺りは初めて。となりの大涌谷はいったことがあった。箱根山噴火でできた爆裂火 口跡。草木も育たない、荒涼とした山肌、岩の間から煙を吐き出す、異質な場所。明治までは地獄谷と呼ばれていたらしい。景色とは対照的に噴気のなかを縫う ようにしてできた散策路をゆく人々はおおむねのどかだ。硫黄泉でゆでた黒い温泉卵を食べると寿命が七年伸びるとか。これも地獄とは対照的。この落差のせい か、実は意外と好きな場所なのだが、今回は訪れていない。たんに小涌谷から名前を連想しただけだ。
小涌谷は、近くに彫刻の森美術館と、小涌園などのリゾート施設がある場所として有名なのかもしれないが、どちらにも足を運んだことがなかったから、今まで来ることがなかったのだった。緑の山道を走っていたと思ったら、いきなり到着。
岡田美術館は二〇一三年秋に開館したので、まだ一年たってない。東洋の陶磁器が主な収蔵品だが、土偶や土器、日本画、浮世絵など、わたしの気をひくよう なものもあるらしいので、ちょっと出かけてみようと思ったのだった。来ることになった理由は他にもあったけれど。たとえば近場で旅行がしたかった、とか。
ネットで調べると、入館料が二八〇〇円と高い(なんとか安く手に入れたけれど)。それとこちらの美術館では、撮影禁止を徹底化するために、カメラやスマ ホ、携帯は、あらかじめロッカーに預けるとあった。入口で空港のように金属探知機を使った持ち物検査もある…。この情報を事前に知ってよかったと思った。 おそらく当日知ったらいやな気持になるだろうと。ちなみに連れにこのことを言ったら「性悪説でなりたっているんだね」と返ってきた。そのとおりだ。ただ、 この件に関しては、実際行ってみて、ある程度は理解できた。館内は五階建てで、展示スペースもゆったりしていて、かなり広い。だが展示室には監視スタッフ がまったくいない。人を置かない代わりに、撮影などに対してのチェックがあったのだ。それならそれで仕方ないなと思う。それと同時に、行く前に思っていた よりもいやな気持にならなかったことを喜ぶ。現実と想像は違う。このずれをかみしめること。現実は思っていたよりもわるくない。
ただ監視スタッフがいないというのは、それはそれで、少々心配だったけれど。いったのが平日、しかも月曜日だったから、人はわりと少なかったが、あちこ ちで、作品を前にしての私語が少々気になった。もっともあのぐらいなら注意することもなかったろうけれど、もっとうるさい人がいても、美術館側の人間はい ないから、そのままになってしまうだろう…そう思ってしまって。
さて美術館だ。この時は企画展としては「─中国人の魂─玉器の名品」と、併設の特集で「かわいい生き物たち」をやっていた。会期は二〇一四年七月三日~九月三十日まで。
企画展にではなく、特集と常設の一部に何か、わたしに語りかけてくれるものがあるだろうと思っていた。期待というほどではなかったが。一階と二階が、お そらく常設展示室、陶器がほとんどだったので、ここではとりたてて思ったことがない。わたしはなぜ陶器たちに何も響くものを感じないのだろう。この陶器た ちから早く逃れたかった。おそらくわたしのほうが遮断しているのだろうけれど、陶器につめたい壁を感じてしまうので。おびただしい疎外感。二階に、それで も縄文式土器や土偶の展示が数点あり、ここでようやく一息ついたけれど。力強い謎たち、おそらく祈りたちであろう、土偶と土器のあげる焔のかたち。
(続く)