短期集中連載 僕の激動5
- カテゴリ:自作小説
- 2014/07/06 16:13:06
車中、揺れる籠の中で、僕が思い出した衝撃は、想像を絶していた。
僕たちはまた、どこかに里子に出されるのか?
運転する今の飼い主を眺めているうちに、どんどん記憶がさかのぼる。
あの時も、僕たちは車に揺られていた。
僕たちはー元の仲間は全部で五羽いた。そして車に五羽の籠をのせられた時、僕はピクニック気分だった。
でも。湧き上がる記憶が僕を押しつぶしそうだ。なのに僕はどんどん思い出してしまう…
どこかに停車するたび、仲間が一羽づつ元の飼い主に抱えられて出て行き、車に戻ってきた飼い主は泣きながら再びハンドルを握っていたー車内の仲間の鳴き声がどんどん消えて、僕だけになったんだ。
何が起こっているのかわからなかった。ただ、これは楽しいピクニックではない、僕はようやく気付いたのだ。同時に恐怖がこみあげてきた。
「さぁ、ここがお前の新しい飼い主さんちだよ」
涙で赤く腫れたまぶたのまま、やさしく僕の入ったかごが車から降ろされたのだ。
そうだー僕の記憶は蘇る。涙で目を充血させた飼い主と相反して、飼い主が僕の入ったかごを手渡した人間相手が嬉しそうに笑って僕に
「よろしくね」
と言った時、違和感でぞっと見返したのだ。その顔がー今の飼い主だ。僕と僕のほんとの飼い主は見知らぬ部屋に招き入れられた。
「長旅で疲れたでしょう?」
見知らぬ顔から馴れ馴れしくかけられる言葉に素直になれない。しかも、僕がねぎらいの言葉とともにぶっこまれた部屋には、オカメインコの僕より小さいけれど半端なく気の強いセキセイインコが僕を侵入者として威嚇した。
「飼い主、また性懲りなく新入り迎えるわけね」
ぎろり、とセキセイが僕をにらんだ。居心地の悪さに僕はすくみあがるだけだった。新入り?僕は新入りなんかになる気などない。五羽の仲間と仲良くこれからだってやっていくんだから。
別の部屋で飼い主と初めて会う人間が正反対のテンションで話をしていた。飼い主の元気のない声が気になる。
「よろしくお願いします」
ほんとの飼い主が、声を震わせていた。なぜ、そんなに悲しく苦しげなんだろう?僕はここにいるよ?僕は元気だよ?僕は飼い主を悲しませたり、心配させたりしないようにがんばってるよ?
もうピクニックは疲れたよね、帰ろうよ。いっしょに帰ろうよ?この部屋の主らしいセキセイが威嚇を続けるのを無視しながら、僕はほんとの飼い主を見つめ続けた。
僕の気持ちをわかってる飼い主がこの居心地の悪い部屋の僕に近づいてきた。やっぱりわかってくれてる、僕はほっと安堵した。飼い主は籠から僕をそっと取り出すと優しく抱きしめて肩を震わせた。今日のピクニックは疲れたね、もう帰ってゆっくり休もうよ、僕は飼い主に訴えた。
その想いは確実に伝わったのにー僕を抱きしめた飼い主の震えはとまらなかった。
(つづく)
強く印象に残っている事は思い出すとと鮮明に浮んで来ますね。