書き込みだらけの古書の楽しみ方
- カテゴリ:日記
- 2014/07/05 09:38:05
傍線や書き込みのある古本は相場がお安い。
百円均一、三冊百円なんていうゾッキ本の棚などを漁ってると遭遇します。
敬遠する方が大半ですが、私はコレが全く気にならない。
むしろ前の持ち主の方について勝手な推測を巡らせたりする楽しみも。
哲学書や思想書のたぐいには、結構参考になる書き込みがある。
マルクスのフォイエルバッハ論とか資本論の隅っこに、
几帳面な青の万年筆で膨大に書き込まれた考察などは誠に勉強になった。
そこら中にツッコンデル批判的な書き込みも見受けられる。
メルロ・ポンティだったかな、ボールペンの乱雑な字で罵り文句があちこちに。
うーむ、流行りだったから買ったけど許せなかったんだろう。
趣味系の書籍やムック本だと、人柄が浮かび上がる。
先日買ったフィルムカメラマニア向けの本には、
高いカメラを次々買う人間の自己韜晦に使えそうな部分にばかり傍線がある。
さぞかし家庭内で顰蹙を買っていたのだろう。ご同慶の至り。
学生街の近くで買うと、レポートまとめるために買ってすぐ売り払ったものが。
あちこちに傍線と要約が書いてある。でも……キミ、ちょっとおかしいよ。
大切でない部分にばかり線が引いてあるぞ。単位とれたのかなー。
頁の角を三角に折ってるケースもありますね。
ロートレアモンの『マルドロールの歌』を買ったら、
有名な『ミシンと蝙蝠傘と手術台』のページの角が折れてた。
ここしか印象に残らなかった可能性が高い。私と一緒だ。
装丁を剥がすと買った日付や持ち主、献辞があることも。
小出版社の書籍には、著者が友人○○氏に贈ったものもあったりする。
その後の二人の関係に思いを馳せる。人生イロイロである。
こうした傑作な書き込みばかりある書籍を扱う古書店を開いたらどうだろう。
『書き込み古書専門店 ユースケ堂』とか。
でも同じ書き込みは二つとないし、仕入れもドエラク大変だ。
お客さんがあっという間に離れ、すぐ偽造書き込みや捏造に手を出す羽目に。
「おい店主、源頼朝の書き込みってフレコミだけど時代がおかしくねえか?」
「へい? なんでやんしょ?」
「徒然草の成立した頃、頼朝はいねえだろ」
「ははぁ、そうなんすか。そりゃ余計珍しいじゃねえですか、出物ですよダンナ」
「この書き込み見やがれ。『家の建てやうは夏をむねとすべし』に傍線引いて『最近はエアコン完備の物件が多き故に候』なんて書いてるぞ。時代がヘンだろ」
「いやー、清和源氏は大した血筋っすね。弟はジンギスカン、兄は未来予知ですかい」
「だいたいオメエの店はこの手の品ばかりじゃねえかよ。『我が闘争』にアレクサンダーが書き込み入れてるわ、紫式部がイラスト描いた枕草子があるわ、田河水泡のサインがある『きょうは会社休みます』初版はあるわ……。ユダが「いろいろご迷惑おかけしました」って書き込み入れてる新約聖書なんて俺は初めて見たぞ」
「………へっへっへ。だから珍しいんすよ。全てお買い上げってことでいいっすか?」
………長々と駄文失礼いたしました。
大手チェーン店ではあまり見かけませんが、
古書店の店頭ワゴンで時々遭遇します。
書き込み本を一冊見つけると嬉しくなり、
同時に持ち込まれたと思われる本を探すことも。
素人探偵みたいな面白さがあるのです。
大爆笑でした。