自作小説5月/お題切り札「必殺切り札」
- カテゴリ:自作小説
- 2014/05/27 11:25:57
一か月、寝食をともにした「先輩」が、ここを出ることが決まった。みながそれぞれ待ちに待った日だから、先輩の旅立ちを複雑な気持ちではあるけれど、やはりおめでとうと快く見送りたいと、私は思った。
先輩は、いっしょに暮していた私と後輩いんこに次々声をかけられ、感極まっているようだった。とはいえ、感傷に浸ってる時間は短い。
決まるまで、途方もない時間に思えるが出ると決まると、あっという間に新しい世界へ連れ出されるのだ。何回も見送る側だから、それは充分わかってる。一抹の寂しさをまた味わうのだが、先輩いんこを見送るまでは明るくしていなくちゃ、私が先輩いんこの横でお別れの毛づくろいを始めた。
「幸せになってくださいね」
先輩いんこはうなずきながら、小さく言った。
「売れ残り軍団の先輩たちから代々引き継がれてきたことを教えるから」
「え?」
「必殺切り札伝授するから、君が決まったら次に子の伝えて」
「必殺切り札?」
「飼い主候補と視線が合って、そこにいきたいと思ったら、飼い主候補を上目使いでじっと見つめて、そのまま首を斜めにかしげるんだ、そしたら的中率90%以上だから」
「そ、そんだけのことで、ですか?」
私は信じられなかった。しかし雛の中で売れ残った中雛がこの籠の中でなぜか大きな中雛から順番に飼い主が決まっていくのは事実で、その理由がこれだったのかととまどう私に先輩いんこにうなずいた。
「にわかに信じられないのもわかるけど、だからこそ我々の『切り札』なんだ」
先輩いんこは、かごに入ってきた店員さんの手につかまって籠の外に出て行った。もう先輩いんこがここに来ることはない。そして、私がこの籠の「先輩いんこ」になったのだ。
それにしても、首を斜めに曲げて上目使いで見上げるだけでほんとに飼い主が決まるんだろうか?と信じられない気持ちのまま、その動作を繰り返す。後輩いんこが何をやっているんだと不思議そうにこちらをみてくるが、私自身不思議なので説明のしようがない。
私は理解できぬまま、「必殺切り札」という頭斜め上目使いを練習しながら、ペットショップを行き交う人々が私に視線を向けるのを待っていた。
数日後。迷いながら私をチラチラ見る人間の視線に顔を向けた。おそらく飼うのを決めかねてる顔だ。しかし、私は直感的にこの人に飼われたいと思った。先輩いんこの言葉が頭の中をこだまする。
「必殺切り札!」
そして、私は悩んでる視線をガシッと捉えるとそのまま、上目使いをキープしながら、
「私を連れて行って」
と念じ首をゆっくり曲げてみた。捉えた視線から迷いが消え、その人は私に魅入られるように私の方に近づいてくる。私は首を曲げたまま、視線を絶対外さないようにその人を見つめ続けた。どれほど見つめ合っただろうか?
ふっと、その人が私から視線を外した。
私はまた選んでもらえなかったー落胆が心を支配し、私はうなだれた。しかし、次の瞬間、その人は店員さんに向かって
「すみません、この子を出してもらえませんか」
と言いながら私を指差したのだ。
「え?まじ?」
頭がまっしろになる。いっしょの籠の後輩いんこ達が
「おめでとうございます」
と口々に私の門出をお祝いしてくれる中で、私はあわてて、この籠の次の先輩になるいんこに近づくとそっとささやいた。
「にわかに信じられないかもだけど、必殺切り札を伝授するよ」
そして私は出会ったばかりだけど長い付き合いになる新米飼い主に連れられて、その籠を去ったのだった。
(おわり)
いやぁ、リアルではペットショップ行けなくなって
きています(--;。
餌は通販で購入。やっぱショップの動物たちに、そういう想い
を感じてしまうので、ペットショップに行けない性質になっています。。。
みんな可愛いんですが、我が家では飼えません。
こんな思いを抱いて、見つめてくれていたのかと思うと心が痛みます。
そんな気持ちの優しくなるお話でした。
何より、タイトルに私がやられてます^^;
「小説家になろう!」評価
●ぼうぼう様 154アクセス
目標値40アクセスを大幅に上回っています。おめでとうございます^^
いんこ飼いはこれでやられます^^;
他のペットでも同じだとは思いますが、いんこは特別な気がしますっw
自然界の生存競争がないけれど、ペットショップでは
飼い主に飼われるかどうかーそういう生存競争あるのだと
思うと切なくなります。。。
そして人も今、コミュニケーションの取り方で模索しているのかも
しれませんね。。。
人の対人方法は、今後マニュアル本必読の時代に来そうかもーと
付き合い下手は思います。
いんこを含むペットの丸々でモコモコ短足な赤ちゃん時代は
一説によると、それを可愛い、守ってやりたいと思わせる為の
本能とか種の保存に寄るものという説をきいたことがあります。
それを証明することは科学的には難しいかもですが
私自身、それでいんこを飼い続けてるので、自然の摂理に、
どっぷりはまってるのかも、って思います^^;;;
先輩から後輩へ受け継がれているのが、微笑ましいですね。
合コンでも応用ができそうな気がする…
いんこたちが、売れ残った乙女に重なりました
思わず感情移入してしまうのはなぜ…
ほぼ悩殺ポーズwですよね^^;
ちょっと前の金融ローンのCMでありましたが、あれはリアルですよね^^;
実いんことのペットショップでの出会いを考えると、いんこの作戦なのかも
と思われることがあります。してやられたのかもですw
おうむたんが、首かしげるならPコインつぎ込みます、たぶんwww
おうむたん談
そんな付加価値は蛇足ビヨッw←飼い主アバターに甘やかされてるからというのを
自覚していな・・・あっ、痛っ、ぎょえぇぇぇ~~~~っ!!!
ぼうぼうさん、この切り札にやられたのですか?
小鳥が飼い主を求めるお話、ふとドリトル先生をなつかしく思い出しました。
(カナリア視点のお話があるのです)
従兄弟がインコのかわゆさに陥落して飼い始めた時、私もほしかったのですが、
親に絶対だめと言われ涙・涙。インコ飼いたかったです~・ω・`
女の人がよく鏡の前で色々な表情の練習するけど、インコさんっちもなんだ(^^)
おうむたんにも教えてあげたら良いのに(´Д` )
小首をかしげて上目遣いの秋波の得意なのがおりまして、
その媚態に騙されたばっかりに飼うはめになったことあります^^
人間でもありでしょうか@@?