4月自作/お題:はじまり 『はじまり』
- カテゴリ:自作小説
- 2014/04/29 23:05:27
…困ったねぇ…
痩せた《母さん》猫は溜息混じりに呟きました。
小雨降る夜、路地裏の入り口。美味しい物の詰まったポリバケツや、人間が自分達を追い回すのに使われる箒やホース、そんなものが散らばる狭い通用路。そこで、散らばるゴミに隠れるようにそっと置かれた段ボールの中、ちょこんと座る小さな塊。
「捨てられたんだね」
痩せた母さん猫よりずっと荒れた毛並。指も爪も見えない手の先。
おどおどと見上げる目と目の間には小さな皺が寄っています。
「お腹が空いているんだね」
母さんが『にゃぁ』とかける声に応えて、その仔は小さく『にゃぁ』と鳴いた。
箱に入れてやった魚のアラを貪るように食べる仔をじっと眺めて、母さん猫は呟きます。
それにしても何て不細工な仔だろうねぇ。耳も無けりゃ尻尾も無い。産後で苛立った母親に齧られでもしたかねぇ、不憫な仔だよ。
こんな不細工な仔を人間の前に出したら、きっと嫌がられて殺されちまうよ。
母さんは拾ったこの仔を、人目につかない場所でひっそりと育ててやる事に決めました。
「普通だったら表通りで、独り立ちするまで面倒見るんだけどね。
せっかく生きて巡り会った縁を死なせちまったんじゃぁ、私を産んで育ててくれた母親に顔向けが出来なくなるからね」
母さんはその仔の首をちょっと咥えて段ボールから引っ張り出すと、人の足で踏みいれられないビルとビルの隙間に入って行きました。
じめじめと暗いビルの隙間。暖かな日差しが射し込んで捨て仔を暖めてくれるのは一日のうち十分ほどだけ。
それでも捨て仔は母さんが届けてくれる野菜くずと魚くずで、すくすくと育ちます。
「それにしても、つくづくおちびさんは変わった猫だよ。
あんな物を見て何が楽しいんだろうね」
笑いながら母さんは、細く開けられた窓に張り付いて中をこっそり覗く捨て仔の背中を、尻尾でぽんと叩きました。
小さな部屋。女の人がいつも何人かいて、四角い板のような物を見て笑っています。板の中には他の人間たちが動いたり喋ったりしていて、それを見るのが捨て仔の唯一の楽しみでした。
「そいつぁテレビっていうのさ。本当に中に人間が入ってるわけじゃないんだぜ」
二匹の間に割って入ったのは、近所で飼われている柴犬のおじさんでした。
飼い主さんがお散歩をめんどくさがってしてくれないので、いつも自分でリードを外して散歩に出ます。もうずいぶんな長生きで、人間の迷惑にならないコースをよく知っているので、こんなビルの奥にまで入ってくるのです。
人の入ってこない街の隅っこを気に入っている母さんには、困りものな相手です。
毛を逆立てて、牙を剥いて威嚇する母さんを、捨て仔が止めました。
「おじさんはこの辺の色んな事を教えてくれるんだ。時々はドッグフードもお土産に持ってきてくれるんだ。だから怒らないであげてよ」
「あんた、犬の言葉が解るのかい!?」
これには母さんも今まで以上に驚きました。
「まいったよ。変わった仔だと思っていたけど、本当にあんたは妙な仔だ」
おじさんは母さんが怒る理由を解っています。けれど本当は、この街の片隅で棄てられた仔猫たちを自立できるまで面倒見てやる、強く優しい母さんの事が大好きで、ずっとお友達になりたいと思っていたのです。
お土産のドッグフードを差し出しながら『くん』と一声鳴きました。
「ふん、くれるってんならもらってやらなくもないよ」
ドッグフードを一口頬張り、
「犬のご飯も悪かぁないね」
捨て仔と分けながら平らげました。
少しだけ気を許した母さんにおじさんも喜びます。
けれど……
ふっ、と母さんが神妙な顔になりました。
「これは問題だよ。犬の言葉が解る猫なんてこの世に居るわけがないからね。
変わった仔にしても変わりすぎてるよ。
あんたはますます、表を歩いちゃいけない事になったよ」
人間は変わった物を嫌います。
猫の尻尾が二本になっただけで、石を投げ、酷い時には火を放ち、生きたまま土に埋めて上から岩を乗せて閉じ込めてしまうのです。
こんなに変わった所だらけの捨て仔が人に見つかったなら、どんな酷い目にあわされる事でしょう。
月日が過ぎて、捨て仔が母さんよりすっかり大きくなっても、とうとう広い通りに出る事は許されないまま過ごしてきました。
楽しみはテレビの中で動く人間を見る事と、時々訪れてくれるおじさんから外のお話を聞かせてもらう事だけです。
不憫な仔だよ、まったく。
母さんがぼやきながら今日もご飯を運んできます。
すると、今日の捨て仔は大慌てで母さんに駆け寄ってきました。
「どうしたんだい。もしや人間が迷い込んできたかい?」
「違うよ! もっとびっくりだよ!
母さん、あたしは猫じゃないんだよ!」
母さんはびっくりしたけれど、笑って言いました。
「あんたは猫さ。最初に見つけた時ちゃんと猫の言葉で喋ったじゃないか。
猫の言葉を喋る他の動物なんて聞いた事もないよ。
犬の言葉も解るようだけど、姿はどっちかといえば猫に似てるからね」
「そうじゃないんだ、お母さん聞いておくれよ。
あたしは《ペンギン》だったんだ」
「何だい? それは」
母さんがきょとんとすると、「ほらあれを見て」と、テレビを指差します。
そこにはたくさんの黒い群れが映っています。言われてみれば確かに猫よりも捨て仔はそちらに似ています。
「でも何であれが《ペンギン》て奴なのか分るんだい」
「テレビの中の人がそう喋っていたよ」
「あんたは人間の言葉も解るのかい!?」
こくんと頷く捨て仔に、母さんは深く溜息を吐きました。
テレビを見れば、人間に囲まれて楽しそうにしているペンギンたち。
母さんはしばらく黙ってしまいました。そして……
「私はあんたの育て方を間違えたのかもしれないね。
あんたは人間の中で育ててもらうべきだったのかもしれないよ」
変わった所だらけの捨て仔です。
犬の言葉も人間の言葉も解ります。
「私には解らないけど、ペンギンてのはそういう生き物なのかもしれないねぇ」
呟いて、母さんは決心したように顔を上げました。
「もう一度あの箱に入ってごらん。
人間が見つけて拾ってくれるかもしれない」
けれど、捨て仔が入っていた段ボールは小さくなってしまって、とても入る事ができません。
「あ、あれなら入れるかな」
小さなお店の前に置かれてあった段ボールに向かって捨て仔は駆け出しました。
「お待ち、あれは……」
止めようとする母さんの声は届きませんでした。
お店から現れた人間から隠れるように、仕方なしに捨て仔から離れてしまいました。
「母さん、あたしどうなるんだろう」
捨て仔が心配になって顔を出そうとすると、箱がパタンと閉じられてしまいました。
「おーい、荷物はこれで最後だな」
人間が箱を持ち上げ車に放り込みました。そして、車が動き出します。
もう手が出せない、と、母さんは頭を垂れました。
けれど再び顔を上げ、
でも、きっと何とかなるだろうさ。
姿形は不恰好だけど、色んな言葉が解るし、仲が悪かった私と犬を仲良しにしちまったり、あんな暗いビルの隙間でさえ楽しみを見つけられる、不思議な仔だからね。
頑張りな。あんたの未来は今始まったばかりなんだろうさ。
トラックが遠くへ走り去り、とうとう見えなくなってしまうまで、母さんは祈るように見つめていました。
… 続くのか!? …
読んでくださってありがとう~(´▽`)
連載のつもりで書いてみたのだけど
不定期発行になりそう…(^_^;)
新連載を読んだ気分でいますです、どうなるのか楽しみだにゃ~^^;
読んでくださってありがとう~(´▽`)
何があっても不思議じゃない、つまり、何でもアリを狙ってみました^^
だけど荒唐無稽すぎないように…とも。
こういうのはまた、下調べ地獄に首を突っ込むことになってしまいました…ww
見えない幸運って、すてきなんだけど目指して書いてみると意外に難しいですよね(^_^;)
何となくあっても不思議じゃない「不思議な話」に続きがどうなるかとも思いました・・・(でもこのまま終わるのが見えない幸福が待っているようで良いのかもしれませんが。笑)
読んでくださってありがとう~(´▽`)
時々こちらのブログで遊び半分で書いていたペンギンの仔のお話? を
ストーリー仕立てにしてみました^^
ぴんぽーん♪(´▽`)
過去のブログでペンギン着ぐるみ着て、時々遊び書きしていた
ペンギンの仔の延長線でーすww
終わってないです(^_^;)
続き書きます~
あたしが飽きたら強引に最終回に持ち込みますww
読んでくださってありがとう~♡
しかし、まさかペンギンとくるとは><
はっ、ここはニコタワールド。
もしかしたら、この仔はニコタの着ぐるみペンギン?
それともジャン〇ル大帝のレオのように育ったりする?
続き、読みたいですよ~
っていうか、これじゃ終わってないですって^^;
おまけにこいつは人(動物)の心も読むとですよ!
飼いならせば兵器にされちゃうかもしれないので、
これからあの組織やあの国の隠密舞台から逃げ回る日々が!(嘘です^^;)
読んでくださってありがとう~(´▽`)
拾ってくれたお礼に、旅に出たぺんぺんは
港港で魚を捕って母さんに送ってくれることでしょう^^
母さん、もう魚やさんに追い回されなくてすみます^^
読んでくださってありがとう~(´▽`)
超緩くお茶犬路線を狙ってみるのも手だったでしょうか(`・ω・´)ノ
次の舞台は…お街の次は山か川でお願いします^^
読んでくださってありがとう~(´▽`)
そうそう、ここは思い切りありえない叙情的に!
そういえばあたし、小学生の時に授業で書かされた「自分で物語を作ろう」
ってやつで童話的な物を書いたら、友達からの感想に
「非現実的でお話が都合良すぎる」
て書かれた事がありますww
読んでくださってありがとう~(´▽`)
最低でもあと一話は…!ww
うふふ、楽しみにしてくれてありがとう~(´▽`)
読んでくださってありがとう~(´▽`)
読んでくださってありがとう~(´▽`)
《母さん》猫みたいなキャラは好きです~(・∀・)
玲ちゃまはペン食希望…と_〆(・∀・@)メモメモ
でもペンギンは脂身多くて美味しくないと思うよ(・∀・)ウキキ
しかも、マルチリンガルの超能力者でなく、超能力鳥だ!
いい先行投資ができそうです
魚食べ放題……
次の舞台は?
「にゃ~」ってなくのか~
くちばしあるんだけど。。。(゜ロ゜;
いや!いかん!
ここでリアルな風景を思い浮かべるんじゃないっ!!
あくまで叙情的描写だけを追い求めろ!
うん!
ペンギンの仔に幸せあれ!!
ワクワク…楽しみです・・・
ペンギンの仔は魚類として出荷され、
ぺんぎんうどんにされてしまいました。【完】
というお話に見えてしまったのは私だけですか!?
続くんですね!?期待してます!
読んでくださってありがとう~(´▽`)
緩~く軽~く可愛いぺんちゃんを書きたいですねぇ^^
乞うご期待!
…続かなかったらどうしよう(^_^;)
読んでくださってありがとう~(´▽`)
続き、明後日あたりまたお休みなので、暇暇に書こうと思います^^
緩く、シロクマカフェとかそういう路線を狙いたいと思いますww
読んでくださってありがとう~(´▽`)
↓で百目木さんの所でも書いたけど、サークルお題「はじまり」「おわり」で
二本連作で考えたのですよ~
したらちょっと諸事情が重なりまして(笑) 今月中に間に合いませんでした~(・∀・)ウヒヒ
まぁいっか…(マテ)
人間の赤ちゃんだったら耳がちゃんと見える所に生えてますにょん(・∀・)
読んでくださってありがとう~(´▽`)
青ペンちゃん着ればドラ×もんでいけるのかも!ww
ペンギンの仔がうどん屋さんを営業するようになるまで
頑張って旅をしながら……云々かんぬん…
というお話にはならないと思います(・∀・)
読んでくださってありがとうございます~^^
いやぁ、人の子捨てたら犯罪ですよww
一応サークルお題「はじまり」「おわり」で連作二本考えたのだけど
忙しくしてて書く暇がなくて、おしゃけ呑まなきゃとっくに書けてたんですけどねぇ
五月に入って続きはまたゆっくり書くのかな…(^_^;)ww
読んでくださってありがとうございます~^^
ドストライクですか(´▽`)
猫もペンも犬も鶯も、美味しい…もとい、愛くるしいですね^^
続く…のかな…(^_^;)
さて、どんなことが起きるのでしょうか・・・。
乞ご期待!(ウフフ、勝手に連載にしている人)
無理のないように、お願いですね。
ちょみさんの ペンギンの格好と 何か関係があるのかな?
どこに連れて行かれるのかな?
。。。。。。。。。。。。。。 続くのかな?? 。。。。。。。。。。
続きが読みたーい^^
耳も尻尾もないっていうから、人間のあかちゃんかと思ったら、ぺんぎんさんだったのね・・・^^
最初ドラえもんかと・・・・
ペンギンか
ちょみさんの小さい頃のお話?ww
続きが楽しみ^^
途中までは人の子だというヲチが来ると思って読んでおりましたが、
「はじまり」というタイトルで、続くのかというノリツッコミで
いきなり終わる高等テクニックもありか。
私のどストライクを突いてこられて思わずもんどりうちました。
(→ねこもペンギンも大好きです)
続いて下さいー>ω<