Nicotto Town



伏見稲荷 その3-京都スピリチュアルツアー

小木(おぎ)っていうんだけど、経丸と呼んでよと少年は屈託なく笑ったあと、
「みるとけいって呼んでいい?」と控えめに聞いた。
二人は快くOKした。
山道を歩きながら、経丸にせがまれるまま
京都の旅の話を始めた

京都御所は、周りに握りこぶし大の白い石を敷き詰めてあるから歩きにくい。
その歩きにくい敷地を避けて
佳は御所の壁脇にそった石のない場所を歩こうと側溝を越えて歩いていた。
歩くために作ってあるものではないから、歩きやすいわけではない。バランスを崩して壁にほんのちょっと右手をあてた。
とたんにバリバリバリと警報機が鳴りだした。
「あらいやだ。」
「鳴っちゃったよ。無粋だねえ」
実留と京都案内をかってでた友達の舞は落ち着いたものだ。
すばやく周りを見回した。
人影はない。
佳はしばらく呆然とした後、パニくって実留に叫んだ。
「ど・どうしたらいいの!」
二人は佳が落ち着くようにかわるがわる声をかける。
「こっちへゆっくり歩いてきて」
「ほら、もうすぐ北東のお猿さんがいるところよ」
「あ・あ・あ・あ・あの」
「大丈夫。そのうちパトカーが現れるくらいよ。」
「はい、吸うう 吐くうう」
実留の掛け声に合わせて
佳が呼吸を整えながら三人でゆっくりと歩き出した数分後だった。
しずしずとパトカーが敷地に入ってきた。

佳はこんな経験は初めてだった。
「スピリチャルな体験より興奮しちゃうう~」
佳は頬が紅潮するほど楽しんでいる。
パトカーは人が歩く速度でカーブを切りながら敷地の奥に入っていった。
三人は御所から同志社大学側にわたる信号を渡り始めた。

経丸は身を乗り出した。
「そうそう、そこであれって思ったんだ。
普通はあわてていてお巡りさんとのやりとりがおもしろいんだけどな」
あの時は鳴りだした警報にびっくりしていた佳だったが、今はそんなことよりも経丸の話のほうがおもしろい。
「ねね、それをどうやって伏見で聴いたの?その石は御所のどこにあったの?」
「公衆電話みたいにあちこちに置いてあるんだ」
「それじゃ、そのあとのことも知っているの?」
「聞きたいのはそれなんだ。なんで幸神社に行ったのか。行く先は御所の東北東に住んでいた清明の屋敷跡だったでしょ。御所の次に通音石があるのは幸神社なんだけど、その間には通音石がないから、突然幸神社から声が聞こえてきたときは驚いちゃった。なんで幸神社に行こうと思ったの?」

三人は同志社大学のレンガ塀にそって北へ歩いていた。
二つ目の小路を通過したとき、実留は空気に流れがあるのを強く感じた。
気持ちの良いエネルギーが川のように流れていた。
「ここ、風があるかな?」
「いいや、風はないよ」
「ずいぶん、気持ちの良い強いエネルギーが向こうから流れてくる。」
小路の両側に頭の高さほどの京都風情の塀がどこまでも続き、塀の上から植木らしい緑がところどころのぞいていた。
「行ってみよう」
佳は自分が感じなくても実留の言うことを信頼している。
何かがあるなら、自分が見つけるという勢いで先に歩き出した。

長い小路を抜けた突き当りには、幸神社があった。
小さな小さな神社だ。京都一小さいと幟に書いてある。
若いカップルが2組ほどお参りしている。
実留はエネルギーの流れを受けながら境内へと進む。
鳥居をくぐるとエネルギーでいっぱいになってそれまであった流れを感じられなくなった。
実留が立ち止って目を閉じた。
佳が聞く。
「どこからエネルギーがでているかわかる?」
左手に低い植え込みの垣がある。
実留はひとつの石の前に進んだ。
「この辺が・・・なんだけど」
実留はそっと掌を当てる。石肌はざらりとした見た目よりも滑らかだった。
灰色の丸い石はひとかかえある。
神社の由来書を見に行っていた舞が戻ってきた。
「由来には古代神を祀っているとしか書いてないけど、ここは確か、歌舞伎発祥の巫女がいたお宮じゃないかな。京都御所の東北東を護る守護宮で御所に一番近い御宮だわ」
舞は3日前、滋賀県で行われた家族法研究会に出席した。前から親しい仲間の実留が、この後で京都観光をするというので自分から案内をかってでたのだった。東京からやってきた会社の同僚の佳と京都駅で落ち合った。おとなしげだがしっかり者という感じの良さだ。安倍の清明や陰陽師をテーマに観光に来たという二人が行きたい場所をつなげて案内するのは面白かった。関西育ちで京都は何度も来ているが、場所の見当はついても行ったことのない場所ばかりだった。
安倍の清明が働いていた京都御所周辺、今は観光ホテルになっている清明の自宅があったという場所や清明神社、式神を隠していた橋と行く予定だ。
それなのに、この二人はいきなり、エネルギーの流れがあるなどと言い出し、石に手をあてて何をしているんだろう?
舞も手を当ててみたが冷たくも温かくもなく普通の石だ。
石の由来は由来書にあった。塞ノ神を幸ノ神に引っかけた石は厳重に作られた囲いの中に入っている。じゃ、この石は何だろう?
佳が石の横にたてられた説明書きを読む。
「丸いのが天のうずめ石です。猿田彦の石がこっちの横にあるとんがった石ですね」
どれどれと三人は代わる代わる猿田彦の石に触る。
「わたしは何もかんじないけど・・どう?実留」
「うん。天のうずめ石のほうがなめらかでまろやかで強いエネルギーだ。さっきの流れは天のうずめ石だね。猿田彦はぎりぎりしていて弱いけど痛い。」
それがどんな神だとか超能力だとか効能のある石だとかは重要ではないらしい。ただ石を触って楽しんでいるだけだ。
実留と佳のスピリチュアルってひどく地味だなあっと舞は変に感心した。

経丸はそこで質問した。
「親方によく言われるんだ。石を探すときは石が呼んでいるのをからだで感じるんだって。石が見つかったら、石がどんな力を持っているのかは、掌で解るって。実留は誰に教えてもらったの?僕にも教えてよ!」
「人から教えてもらったんじゃないの。小さなときから突然気分が悪くなったり愉快になったりしたの。親から天邪鬼だ、うそつきだって言われて、あなたぐらいの年には言ってはいけないことになっていた。大人になって佳と知り合って、話せるようになるまで辛かったこともあるよ。経丸はそういう仕事ができるんだね!いいお仕事だね!」
「実留、わたしも教えてほしいの。そういう感触って全然わからないんだもの」
「わたしが自分でしようと思っていることでいい?」
「いい!」二人の目が輝いている。
「呼吸法があるのよ。呼吸を留めないで呼吸をつなげるの。簡単そうでいて難しいよ。さあ、呼吸を留めないで歩いて行こう」
経丸は飛び上がって喜んだ。歩きながらぴょんぴょんと高く飛び上がる。まるで床運動をしている選手のようだ。
佳も実留も楽しくなって、リズムに合わせて大きく手を振りながら歩いた。

ー続くー




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