伏見稲荷 その2ー京都スピリチャルツアー
- カテゴリ:自作小説
- 2014/02/07 20:00:06
下った階段は緩やかな登り降りの坂道になってきた。
崖上に沿って蛇行する坂道にはところどころ赤い鳥居が何基か連なり建っている。
右手の山土は丈の低い緑で覆われている。
太陽が山に隠れて薄暗いかと思うと、右手から陽の光が一条差し込んで幻想的な山の中を進む。
それまでにあったよりも多くの赤い鳥居が20基以上連なっている。緩やかに登りながら曲がりくねって、先の道が見えない。
陽を受けた鳥居の色が道に映りこんで、赤い幾何学模様がタイルを張ったかのように彩られた道を進む。一条の日差しが差したかと思うとなくなり、また角度を変えて一条の陽が差し込む。陽の幻燈映像がうごめくなかを歩いていく。
鳥の声が遠く小さくなり、空気がほんのりと暖かく感じられる鳥居の道を抜けた。
道の左の大きな丸い石に少年が腰かけていた。
稲荷大社の用でもあるのだろうか、髪を後ろで結び青い着古した時代衣装を着けている。
ニコッと笑いかけられた。
山道ですれ違う人とは声を掛け合う習慣で「こんにちわ」と挨拶を返す。
「お姉さんたち、さっき紋付きを着たおじさんに道を聞いた人たちだよね。ぼくの親方なんだ。道案内しろと言われてきた。」
さっきは何も答えてくれなかった、あの狸親父が?親切すぎないか?
いでたちがいでたちだし、いくぶんか身構えたものの、佳はためらいなく話す。
「親方って何のお仕事をしているの」
「石屋だよ」
少年は自分が座っている丸い石を叩きながら誇らしそうに顔を上げた。
「この山は石の産地なんだ。ここにしかない石がある。それを探し出して塔や階段を作っているんだ」
「じゃあ、この山の階段も作っているのね」
「ああ!この山んことなら、どんな細い道だって知っている。頂上に行きたいっていうから歩き方を教えにきたんだ」
「わあ、ありがとう」
実留は石好きで趣味を通り越したマニアだ。石屋と聞いてのめりこんだ気持ちを手放しに喜んでいいのか、少し引きながら質問した。
「今日は何かイベントでもあったのかな?親方は羽織袴を着ていらしたし、あなたも水干のような着物だわ」
「うん!今日は春分の門が開いてお山の皆が集まる大切な日なんだ。いつもよりいろんな道が多くなる」
「えっ?いつもより?」
二人は思わず声を上げた。いつもは入れない道も公開されてるってこと?いいじゃない、なんてラッキーな日に来たの。
「僕が選ばれたんだ。本当は女の子の方がいいって親方は言ったけど、ぼくはお姉さんたちの話を聞いていたから、どうしても自分に道案内させてほしいって頼んだんだ」
「どんな話を聴いたの?」
「きのうは貴船に行ったでしょ。バスは春分の日からだから歩いて貴船を登っていた。前の日は下鴨神社、もうひとりお姉さんがいたでしょ。京都御所で警報を鳴らしたあと、幸神社にも行ったでしょ。」
「な・なんで知っているの?」
少年は12・3歳ぐらいだろうか、小麦色の引き締まった肌と身のこなしのすばやさが利発に見える。この時代衣装だって京都だからだろうか違和感がない。どこにでもいる少年だ。怪しげなところは何も感じられなかった。
「石には通音石というのがあってね、石の前で人が話したことを送ってくるんだ。お姉さんたちの話がすごくおもしろくて、もっと話を聞きたいって思っていたんだ。でも、今日どこへ行くか話していなかったし、もう東京に帰ったのかなって思ってた。親方が帰ってきて道案内の話を聞いたとき、ものすごくうれしかった。奇跡だって思った。会いたい人たちが深草の山に登ってきたんだってね!」
「ツウオンイシ~!?それは何?」
初めて聞いた二人は叫んだ。
そう!二人にワクワクがやってきた~。
ー続くー