★　賀正　★



さて、世間はこれから正月明けの仕事始めですが、年末年始営業だったアタシの店はこれからやっと正月休みですよ。
ずっと手伝ってくれたお嬢もおやっさんも、お疲れさんでした。
これでようやく三人ともちょっと遅いお正月休みに入れますね。
っていっても、二人は月曜から会社始まるから、今日一日ゆっくり休んでくださいね。
ではお客さんも居なくなったことだし、看板下ろしちゃってのんびりと初詣でも行きましょうか。
三が日過ぎちゃったけど、まだ振る舞いしてくれる神社が路地裏に在るんですよ。
あったかいものでも頂きましょう。

それにしてもお嬢はとうとう帰省しなかったんですねぇ。
いや、おかげで手伝ってもらえてアタシは助かったけど、ご両親が寂しがってるんじゃないですか？
正月に帰っても姪ごさん達にお年玉ねだられるだけ？　そっか、子供さん連れのご姉妹が帰ってたんですね。
皆が居なくなってから、今度の三連休に帰省ですか。
じゃあちょこっとのお給料で申し訳ないけど、両親にお土産でも買ってあげてくださいよ。

おやっさんは帰る家も無きゃ行くアテもない身柄ですもんね。
何だか毎年顔合わせて酒呑んでましたもんね。
最後の休み、一人で寂しいなんて出かけたりしないで、明日の仕事始めに備えてしっかり休んでくださいよ。

ほら着いた。
呑み屋街にありがちですけど、通りからちょこっと外れた路地のお稲荷さん。
ここが意外と穴場でね。
この辺の呑み屋で正月商いする皆さん、大抵ここで初詣するんですよ。
しかも皆、正月客が落ち着いた三が日過ぎてから来るもんですから、振る舞いは遅くまであるし、三が日を大きな神社でやってた屋台もこちらに流れて営業してくれるんですよ。
ま、屋台ったってタコヤキ一軒ですけどね。

ささ、まずはお参りお参り。はい、お賽銭コレ使ってください。
五円ぽっちですけど今年も良い五円がありますようにってね。
はい？　ベタですか？　すみませんねぇ
アタシはご近所付き合いがあるから、一応それなりの額しなきゃいけません……っと。
で？　お二人は何をお願いしたんですか？
内緒？　そりゃまぁそうですね。
アタシですか？　そりゃ当然商売繁盛ですよ。
ささ、あったかいものでも頂きましょうか。

甘酒

生姜をちょっと入れてね、箸でかき混ぜながら、っと。
そうそう、甘酒っていうと今じゃすっかり冬の飲み物ですけど、元々は夏の飲み物だったんですよねぇ
土用の丑と同じようなもんだったそうですよ。
栄養が高いから、夏バテに冷やした甘酒でしゃっきりするんだそうで。
俳句の季語でも甘酒っていったら夏の事なんだそうですよ。
古くは応神天皇に古代の大和民が醴酒（こざけ）というお酒を献上したと記されてますから、由緒と歴史ある飲み物なんですねぇ

……あ、甘酒振る舞いの説明板に書いてあるの、読んでたってバレちゃいました？
あぁ棒読みでしたか、こりゃまいったな。

ささ、そんなことより、たこやきでもつまみながらもう一杯頂きましょうか。
酒と名はついてるけど、実際はアルコール入ってないから酔っぱらう心配もありませんからね。
ここのたこやき、これがねぇまた美味いんですよ。
天然の塩とダシで味付して、たっぷりのキャベツとネギに紅生姜。
タコヤキの生地に味がしっかりついてるからソース無しでいただける、手づかみでも平気なんですよ。
勿論ソースにマヨネーズつけても美味いですけどね。
歩きながらこう、手でぱくぱくするのがイイんですよ。

さて、夜も明けてきたことだし、今日はこれでお開きしましょうか。
店は十日ほど休んで、またいつもの時間通りに開きますね。
美味いもん仕入れときますんで、手伝いのお礼がてらにごちそうしますんで、良かったら寄ってやってくださいよ。
ええ、ちょっと旅でもしてきます。
酒と肴探してね。
今回は日本の真ん中より、ちょっと南の方で美味い物探してみようかと思ってるんで、楽しみに待っててくださいね。

それでは今年も、どうぞ酒の話しの店をよろしくお願いします。