Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(98)

 正面から見る王宮は、通用門から見るよりも、はるかに壮麗だった。殊に、今は、冬至祭のための飾り付けで、細かい装飾があちこちに見られて、昼の光の下では、可憐な趣もある。
 「…で、なんで今日は正面からなんだ?」
 「そりゃ、正式な招待客だもの。通用口から入る訳には」
 「……は?」
 正式な?招待客?
 「私たちは、招待状を受け取った、正式な招待客として、王宮へ向かっているんだ。冬至祭のお手伝いでも、王妃の暇つぶしの相手をしに行く訳でもない。…了解した?」
 「してない!」
 「…だって、ちゃんと正式な招待状を受け取っただろうが」
 「そりゃそうだけど……」
 クリスが座席の下をあさって、荷物の中から招待状――の入った封筒――を出し、こちらへ向けて差し出す。
 「じゃあ、ちゃんと中身も確認していないんだよね?今からでもいいから、ちゃんと読んで」
 「今からって、そんな時間…」
 正面入り口が、もう、目の前なのに。
 「いいから。女の子が二人もいるんだから、ちょっとくらい支度に手間取ったふりをしても大丈夫」
 セシリアとクリスのあきれたような視線を受けながら、大急ぎで招待状と、添えられているカード類に目を通す。
 装飾の多い字体で書かれてはいるが、文面自体にたいして変わった事が書かれている訳ではない。招待主の名が、国王その人になっている事を除けば。
 招待状の最後に、滞在客用に通行証を同封したので、滞在中は身につけておくよう願いたし、とあるのが目に入った。急いで同封されたカードを探ると、二つ折りにした厚紙のカードの間にそれらしいものが挟まれているのを見つけた。
 「上出来」
 クリスが招待状と「通行証」の挟まったカードを残して、残りを封筒へしまい、荷物へ戻した。ふと見ると、クリスもセシリアも、同じものを手にして降りる準備をしている。
 「すごおい。停まる前にちゃんと見つけ出したよ」
 「やればできる子なんですよ、あなたのお兄様は」
 車がアプローチから正面玄関へさしかかり、減速を始めた。
 俺はため息を一つついて、彼女らに倣い、降りる支度にかかった。
 早くも十五日後が待ち遠しくなってきた。

 注目はされるが、誰か一人に注意が向かない、と言われた意味は、中に入ったとたんに解った。
 冬至祭はまだ始まる前だというのに、すでに祭り気分で王宮に来ている者が少なからずいて、そういう輩は、広間のそこここに陣取って、入ってくる者たちの品定めをしているのだ。セシリアなぞは、好悪入り混じった視線、などというものに晒された事がないので、すっかり足が竦んでしまった。まあ、俺だってそんなもの、慣れた訳でもないが。
 「セシリア?大丈夫?周りは気にしちゃダメだからね」
 クリスの呼びかけにセシリアが消え入りそうな声で「大丈夫」と答える。だが、足元が震えて大丈夫そうには見えない。
 仕方がないので、クリスに合図して、両側からセシリアの手を取る。
 「これなら、足がもつれても、こけたりしないだろ?三人そろってこけるようなら……それは、そんな床を放置してた方が悪い」
 「だいたい、「冬至祭」って言うのは、招待主が招待したい人を招くんだから、招待客の素性を詮索するのは、お客としてお行儀が悪いんじゃないかと思う」
 両側からの、励ましとも思えない励ましを聞いて、セシリアが前を向いた。体の震えはまだおさまらないけれど、とにかく、一歩前に出た。
 セシリアの歩くペースに合わせたので、謁見の場に就いた頃は、もう次の招待客がすぐ後ろに来ていた。
 付け焼刃で練習したとおりに挨拶を終え、招待してくれた事を感謝する旨を申し述べて、その場を辞去した。
 謁見の間の上座の方にいる人たちが、終始笑いをかみ殺しているように見えたのは、気のせいだったろうか?

#日記広場:自作小説




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