Nicotto Town



ガトー追憶記②

【銀の守り笛~かってにスピンオフ】
ガトー追憶記 ②/5

宮廷薬剤師にも階級があり、上から特級、一級、準一級、二級、準二級、そして見習いと別れている。
見習い期間の2年間が過ぎるとボク達は自動的に準二級の薬剤師に昇格する。同時に、試験を受ける事により成績と面接で上の称号を得ることが可能だ。
試験に一日、面接に一日と、宮廷薬務室に所属するほとんどの人間がこの2年に一度の大イベントに挑み、結果に悲喜こもごもとなる。当然、ボク達4人も試験に挑んだ。
結果はボクとバートンが準二級、つまり試験には落ちた事になる。ニックは最後の追い込みの徹夜勉強が功を奏し、めでたく二級に合格した。
そして、ジュリアは準一級の合格欄に名前を連ねていた。見習いから準一級への合格者は10年ぶりだそうでジュリアを知らない人たちは驚いていたけど、同期のボクたちには当然の事と思えた。

『やぁジュリア、合格おめでとう!ボクらの希望の星が順調で同期のボクも鼻が高いよ』
『ありがとうガトー、君は残念…ではないよな?元々受かるつもりなんて無かったようだし。バートンもそうだけど他の事にのめり込みすぎじゃないのかい』
そう、その頃のボクは薬剤師という職業に憧れを抱いてはいなかった。植物に興味がなくなったわけではない。
宮廷薬室が管理している薬草室は、王宮内にいくつか点在し基本的には場所によって違う植物を育てている。しかし需要の多い植物等は数か所で育てており、すべての育成の管理を薬剤師が行っている。
見習い期間の1年目が終わると、このような雑用が見習いの仕事になる。見習い期間も残すところ半年ちょっとなり、終了試験の一つである自由課題を探している頃にボクはおかしなデータに気が付いた。

薬草室の場所は違うが同じ種類の植物であるにもかかわらず、明らかに薬草の成長に違いがあったのだ。特殊な草は研究室で管理をしているが、基本的に薬草室は場所が違ってはいても同じような温室で同じ温度、湿度にして育てている。日照時間も変わりはないし、使用している土や肥料、与える水も同じものを使用している。
それでも育ち方に違いがある。
そこには何かしらの外部要因が必ずるはずで、ボクはその要因が音ではないかと推測した。薬草室の違いは場所であり、王宮の建物の近くだったり、闘技場の横であったり、給仕場の裏手あったりするので、音環境の違いが成長の差にあると思ったのだ。

そこでまず、ボクらが管理している薬草の図面やら王宮の図面を徹底的に集め出した。
アレックス兄さんが、第一宮廷軍法戦略室へ勤務していたので、裏から可能な限りの図面を取り寄せてもらった。
王宮の位置や座標を調べつくしたら、今度は音が反響する建物の材質の違いに着眼し王宮内の建物はもちろん、椅子、机といった生活雑貨品や普通ではわからない調度品等についても調べ回った。
この時ばかりは貴族の子という利点を最大に利用させてもらったし、父にも可能な限りの助けをしてもらったものだった。

『普段は入る事のできない部屋について、材質や調度品等を可能な限り調べたい』
というすっとんきょうなお願いに、父は何も言わずにレポートを作成してくれた。もちろん門外不出項目が多く知りたい事の半分も解らなかったが、その頃のボクは自分の仮説を証明するための調査作業にある意味満足し、自分の行動に酔っていたと思う。
授業そっちのけで、膨大な資料を基にまとめ上げたが音と薬草の成長に顕著な関連性は見つける事は出来なかった。それでもボクはこのレポートを見習い最終課題として提出をした。

試験の面接時に先生が
『着眼点は面白いし調査方法もすばらしいが、薬剤師としての範疇を超えているね』
と、暗に薬についてもっと勉強しろと言われたものだった。でもこの研究を通して、薬草よりも王宮内の調査をもっともっとやりたいと願っていた。

調べれば調べるほど王宮内は面白い。
増築をかさねているので段差も多く、老化箇所もバラバラではあるが、当時の建築技術がモザイクのようにちりばめられている。とおり一辺倒の改築や現在の修復手法が使えない場所も多数存在するのだ。
『君はいったい何をそんなに遅くまで調べているんだい?』
『あぁ、ジュリア。いやね、ほら第三薬草室の向かいにある武器倉庫があるじゃないか。あれはどうやら80年前に作られたらしく当時は倉庫じゃなくて馬具の加工場だったらしいんだけどね。そんな作業場だったはずなのに柱にはマグル調の螺旋レリーフが彫られてるんだよ。あぁマグル調っていうのは200年前にはやった高級家具の足なんかに使った形式でね…』
『まって、まって。何を言ってるのか私にはさっぱりだよ。君は建築士にでもなるつもりかい?』
『今更、大工になるつもりはないよ。調べて掘り下げていたら、色々と不思議な事が解るもんだと思ってさ』
ジュリアはふぅと一息ついてから話し出した。
『ふふ、前から思ったのだが君は薬剤師のような一つの事に特化した仕事よりも、多様な事象を取りまとめていく方が似合ってるね。今からでも遅くないと思うので進学部門の変更をした方がいいんじゃないか』
『そんな事をしたら、ジュリアに会えなくなるじゃないか。それは寂しいよ』
ボクは冗談半分でそう答えると、ジュリアは妙に顔を赤くしてあわてたように言い出した。
『き…君は変な事をいうなぁ!』
それからくるりと背中をむけて、がんばってくれと言い残しそそくさとその場を去っていった。

初めての試験から更に二年が過ぎ、また試験の季節がやってきた。
ボクはあいかわらず、薬剤師としての仕事はそっちのけで王宮内について色々と調べていた。この二年でボクに対しての周りからの認識は、自分の趣味に最大限に力を注いでいる変わったヤツというものになっていた。
先生も最初はボクに注意していたが、いくら言っても言う事をきかないし、必要最低限の仕事はしていたので放任というより放置していた。
今年の試験もボクは受からないであろう。現在、見習いの後輩たちにいずれは追い抜かれるに違いない。
こんなボクに話しかけてくるのは結局、同期の4人ぐらいであった。

ニックは準一級への試験には不合格となった。ここで停滞する人が多いと聞くがニックもその一人になりそうだ。
バートンは、錬金術に必要な薬品が二級からでないと扱えないと知るや、いきなりやる気を出してしっかり合格した。しかし、彼は何を研究したいのかはボク達にも明かさない。
そしてジュリアはしっかりと一級へ昇格していた。見習いからたった四年でしかも十六歳という若さで一級薬剤師の仲間入りをしたのだ。

小さい頃から整った顔立ちをしていたジュリアは十六歳で更に美しさに磨きがかかっていた。その美貌と頭脳でまたたくまに彼女は有名人になっていた。他の部門からの男性からも良く声を掛けられていた。
十七歳だったボクは彼女との友情を壊したくないという思いと、彼女との階級の差に引け目を感じていたので、もう一歩を踏み出す勇気が無かった。
誰よりも、彼女を目で追っていたというのに。

アバター
2013/11/27 14:20
十六歳で一級薬剤師とは……さすがですね、ジュリアさん。
ユルが知ったら、卒倒すると思いますw

淡々と語られながらも、ガトーくんの本質が、
徐々に明らかになってきましたね~
第3話も楽しみにしていますw

バートンが研究したいこと、というのが
なにげに気になりますw
アバター
2013/11/27 13:07
ガトーの青春時代が淡々とつづられています。

ちなみにこれはロマンス小説ではありません。
ジュリアとの仲が・・・なんて期待しないでくださいw




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.