Nicotto Town


うみきょんの どこにもあってここにいない


夜のむこうに城がある。


小さい頃から、23歳ぐらいまで
夜景がすきだった。
23歳のときに、尊敬していた男が
夜景は見下ろすようで好きではない
といったようなことを聞いて
夜景が好きではいけないのかと
思ってしまって、その思いを封印してしまったのだ。

彼は高層ビルからみる、地上にきらめく星のような世界。
それを見下ろすことが、傲慢につながると思っていたのかもしれない。

わたしはしばらくして、わたしが夜景をすきなのは
灯りにぬくもりを感じているからだと思ったものだ。
あの灯りのむこうに団らんがある。
たくさんの団らん。
それは家族をうしなっていたわたし、
うしないつつあったわたしにとって、
希望のようなものだった。

だから、夜景がすきなままでもよかったのだ。
それまでは
高層ビルにのぼったり、埠頭にいったりしていた…。

おとといだったか、夕方5時…もう5時だとほとんど太陽がおちて
あたりは夜の雰囲気だ…、車の助手席から、ぼうっと外をみていた。
そんなときに、夜景がすきだったなと思い出していたのだが、
わたしが夜景にひかれたのは、灯りのせいばかりではなかったのではと
ふと、ようやく、思い至った。
夜はくらくて、全貌がみえなくなっている、その暗さのむこうに
未知のもの、想像のなにかが住まうものを、感じていたのではなかったか。
それは恐怖でもあるが、やはり惹かれる、ファンタジーだ。
灯りのてらす暗がりにも、わたしはきっと惹かれていたのだ。
それは空想のはいる領分だった。
夢のはいる世界だった。

ああ、夜にちかい五時に、道路の左に、川のようなものを見つけたのだ、
川ではないのかもしれない。ナビには川としてでてこない、
あるいは暗渠の一部が露出した、やはり川だったのか…、
用水路のようなもの、しげった草のようなものが見えたのだが
わからない。
助手席から、のぞきこんだが、それは夜の力もあって
判別がつかない。そのときに、思ったのだ。
暗がりのむこうにある、あれは川なのだ、
夜は想像の入り込む世界なのだから…
そうして水をさがす自分が、子供の頃からかわっていないと思った。
いや、逆かもしれない、水をさがす自分に子供の自分を重ね、
そのときに、子供の自分にとっての夜を思い出したのかもしれない。
夜のむこうに、想像の城があるのだと。





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