Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(94)

 冬至祭は、冬至の日を挟んで前後一週間ずつの十五日に渡る行事だ。…基本的には。
 だが、祭りの準備、というものには、常に浮足立ったものが付いて回り、気が早い者は、夏至の日が過ぎたら、それほどでもなくてもひと月ほど前になると、冬至祭の準備に取り掛かるのが常だ。
 年が明ければ試験が待ち構えている学院も、例外ではなかった。
 この時期になると金工室が混みだす、と以前クリスに説明したが、実はその半分以上は「贈り物・兼・課題制作」だ。どちらにウェイトが傾いているかは、人によって違うし、むろん、中にはおおっぴらに贈り物なのが丸判りな品を作っている者もいる。……まさか自分がその中に混じる羽目になるとは、少なくとも去年の今頃は思いもよらなかったが。

 王宮の冬至祭への正式な招待状が届いたのは、月が変わってまもなくの事だった。まあ、それ自体はほかの参加者も同様だそうなので、慌てることも驚く事もないのだが。
 一緒に届けられた品が問題だった。
 セシリア宛てに届いた五着の少女用ドレス――早速セシリアが嬉しそうに当てて見ている――とコートと靴その他装身具一式、はまあ想定していなかった訳ではないが。
 俺宛てに礼装が三着も届いたのも、――送り主の趣味を反映して、頗る煌びやかなのも含めて――まあ、理解の範囲内、だ。
 「案外、ちゃんと着付ければ、似合うかもしれないな。このデザインなら」
 …だが、なんで一緒にドレスなんぞか贈られてくるのか、は理解に苦しむ。
 「大丈夫。これによれば、これは仮装舞踏会用だそうだから、ドレス着て参加する男性はアレクだけじゃない」
 クリスが荷物と一緒に届いた手紙をひらひらさせて言う。そんな事を言われても、ちっとも大丈夫な気がしない。
 何より仕立屋が一緒に来ていて、ドレスも礼装の方も仮縫い状態なのが不安感をあおる。
 「…ああ、アレクは採寸してないから、目測で測って、ちょっと大きめに仕立ててあるんだって。試着して調整するように、ってあるな」
 「……なんだか、熱が出そうな気がしてきた……」
 「それは大変だ。試着が終わったら、しっかり休んでおくんだな」
 「熱があっても、これの試着は免れないんだな」
 「そういう事だ。まあ、その辺を考慮して、わざわざ休みの日に届けてきたんだろう」
 「……全部、ってことだよな?」
 「そうだろうな。見たとこ、中に着るシャツもデザイン違いのようだし」
 がっくりと肩を落としていると、扉が開いて、隣の部屋の片づけをしていたコートニー氏が、仕立屋を呼びいれた。
 「まあ、頑張れ、とだけ言っておこう。私の方にも、要試着物件が届いているし」
 ようしちゃく物件?
 一瞬、何の事だか解らなかったが、つまりは、クリスのところにもドレスが届いている、って事だ。
 「しかも、一人では着られないような代物だって。…今、上で準備してる」
 …そりゃ大変だ。
 隣の部屋に荷物を運びこんでいた仕立屋が、俺を呼ぶのが聞こえる。抵抗しても免れないのならば、あきらめて早いとこ済ませてしまおう、と思いつつ、扉をくぐった。

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