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■近代文藝之研究|講話|ピネロ作……(3)

■近代文藝之研究|講話|ピネロ作「二度目のタンカレー夫人」 (3)

然るに一八七七年渠は二十三歳の頃始めて作者としての生活を始めた。勿論俳優としての傍に書いたのではあるが、其初めての作は「一年二百ポンド」と題する作であつて、それは倫敦の世界座のために書いたのである。これは極く短いものであるが、また其年にライシャム座のために「其勝負は二人でやれる」と題する短いものを書き、一ニ年經つて後、またアーヴヰングの勸めで、同座のために「デージーの逃れ」、「ヘスターの祕密」、「過ぎし事」などいふ短篇を作つた。而してこれには多くピネロ自から一役を勤めて居た。然るに其同じ頃一八八〇年にセント・ゼームス座の名女優ケンドール夫人のために「福蜘蛛」(マネースピンナー)と題する劇を作つた。これが劇作者としての彼の位地を得た第一歩であつた。而して此作は當時一つは名優の技倆にも由つたであらうが兎にも角も成功した作として評判が好かつた。而し作風に於ては、極くコンヴェンショナルな在來の英國式の喜劇の範圍を脱しないものである。但しこれに付て或る批評家はピネロが後年回轉期に達すべき資質は既に此作に現はれて居たのであるが、只當時作者に其新方面に大膽に直進する勇氣が缺けて居たのであると評した。



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*註1:然るに一八七七年
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註3:勝負
「勝」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/katsu.jpg
 補註:「負」は原本他項では旧字体が用いられているがここでは「負」。

*註4:逃れ
「逃」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註5:過ぎし
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註6:勤め
「勤」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kin_tsutomeru.jpg

*註7:ケンドール夫人
マッジ・ケンダル(Dame Madge Kendal/1848年~1935年)のこと。イギリスの有名舞台女優。『エレファント・マン』の中でも重要な役柄として描かれている。

*註8:福蜘蛛
「福」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。

*註9:技倆
「技」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/waza_gi.jpg

*註10:評判・批評家・評した
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg

*註11:脱しない
「脱」の旧字体。旁が「兌」。

*註12:達すべき
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註13:資質
「資」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi.jpg

*註14:既に
「既」の正字体。「白」+「ヒ」+「旡」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sudeni.jpg

*註15:直進
「進」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

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http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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