『夏の種』
- カテゴリ:30代以上
- 2013/09/16 14:05:45
「何を植えているの?」
少年が話し掛けます。
「夏の種よ」
秋の初め、吹く風も冷たく感じられる公園の片隅。
小さな花壇に種を植えている少女が応えます。
「夏の種?」
「そうよ。冬に咲く夏」
(そんな名前の花は聞いたことないけど・・・。でもぼくが知らないだけかもしれない)
花に詳しいわけじゃないしな・・・
少年は思いながら
「どんな花なの?」
「だから、冬に咲く夏だってば。そうだ。あなたも手伝ってくれない?」
「良いけど、ぼくはお花を育てた事なんて無いよ」
家では母さんと妹が育ててたけど・・・
今、少年は家を離れてひとり暮らし。
お花に詳しそうな友達もいません。
「そんなに難しいことではないわ」
少女は続けます。
『夏』をね、見つけてきて欲しいの。
秋の中に残る『夏』。
これから少しずつ少なくなってくるから大変かもしれないけど・・・
「二人で探せばきっと大丈夫」
そう言って少女は微笑みました。
次の日。
「こんなもので良いのかな?」
少年は、途中で見つけたアイスクリームを差し出しました。
「夏季限定?」
袋の文字を読みながら少女が言います。
「うん。これが最後だったんだ。ダメかい?」
「ううん。初めてには上出来だわ。アイスも美味しいしね」
少女が微笑みながら続けます。
「わたしはね、ベンチに座って電話をじっと見つめている女の子を見つけたわ」
「うん」
「電話が鳴ったときの笑顔がね、『夏』だったのよ」
「笑顔が『夏』?」
「そう。だって見てたら心がぽかぽかするもの」
(そうかもしれない・・・)
少女の笑顔に、少年は思いました。
それからも二人はいろいろな『夏』を見つけては花壇の前で語り合いました。
『冷し中華はじめました』の看板。
新しいレインシューズで水たまりをはねる女の子。
『かき氷』の張り紙。
大きな紙袋を大事そうに抱えて歩く女の子。
スイカ味のチョコレート。
「あなたはいつも食べ物ばかりね」
「う、ごめん」
「あはは」
楽しそうに笑う少女の笑顔を見る度に、少年の心はぽかぽかするのでした。
こうして「夏」も集まって、お花も少しずつ大きくなっていったある日、少女が言いました。
「ねえ、わたしね、これからしばらくの間ここに来られないの」
「えっ。どうして・・・」
「どうしてもね、やらなくちゃいけないことが出来たから」
「大事なことなの?」
「うん・・・ごめんね。だからお願い。しばらくの間あなたひとりで子のお花を育てて欲しいの」
「分かったよ。でも、またここに戻ってくるんだよね」
「もちろんよ。この花の咲く頃には、必ず」
そう言って指を差し出す少女。
少年が指を絡めます。
『指切りげんまん嘘ついたら・・・』
「嘘なんかつかないからだいじょ~ぶ」
「指切った。あはは」
一方的に指を切り、手を振って駆け出す少女のいたずらっぽい笑顔が、いつまでも少年の心に残りました。
「今日はさ。アイスを落とした友達に自分のアイスを半分あげている女の子を見たよ」
あの日から、ひとりで花壇に話し掛けるのが少年の日課になりました。
木の葉も色づき、秋も大分深まってきましたが、『夏』はいたるところにありました。
「今日は街で買い物をしている女の子を見かけたよ」
「『プレゼントですか?』って聞かれて照れくさそうに笑ってたよ」
まるで隣にいる誰かに話し掛けるように花壇に語りかける少年。
「今まで気付かなかったけどさ。こんな季節になっても『夏』はたくさんあるんだね」
そう、そして『夏』は少年の心の中にも、確かにありました。
やがて木の葉も散り始め、木枯らしが吹き始める頃、花壇のお花も小さなつぼみをつけはじめました。
少年は、今日も『夏』を携えて公園に向かいます。
「あれは・・・」
花壇の前にたたずむ人影。
あの日の少女と同じうす黄色のシャツと向日葵の帽子。
少年は駆け出しました。
駆け寄る足音に振り向いたその笑顔は、少し大人っぽく見えましたが、紛れもなくあの少女でした。
「お花、咲かせてくれたんだね」
「約束したから・・・」
「ありがとう・・・ただいま」
「お帰り・・・」
咲き誇る『夏』の中、少年が聞きます。
「大切な用事ってなんだったの」
「う~ん・・・引き継ぎ・・・かな?」
「引き継ぎ?」
「そうよ。だって、わたしは『夏』だもの。これからはずっとここにいるけどね」
そう言って少女は、少年の大好きないたずらっぽい笑顔で微笑むのでした。
おしまい
いつもありがとう♪
やっぱり物語の終わりは『しあわせ』じゃなくっちゃね。
(#^.^#)
おぉ~いつもの可愛いメルヘンですね^^
最後も~悲劇じゃなく~希望のある話でよかったですね。
このまま…妖精さんが、帰って来ないのかも…と~ちょっとドキドキしました。
このままだったら夏の終わりと共にこの妖精さんも
どこかへ行ってしまう予定だったのかな…
「夏」を、集める事で、残る事ができたのかしら?
少年の協力で、うまく行ったのかもしれませんね~^^v
暦の上では、もう秋なのに…まだまだ暑くて…夏の様ですものね…^^
こちらは、まだまだ~夏の種が、沢山残っております。
ま、久しぶりだし、こんなものよね。
(#^.^#)