■近代文藝之研究|講話|繪畫談(5)
- カテゴリ:その他
- 2013/08/09 21:13:22
■近代文藝之研究|講話|繪畫談 (5)
佛蘭西のアンプレショニズムと、英吉利のラファエル前派とは、種々の點で仝じ運命を有つて居る氣味がある。特に其出立點が一種の寫實主義若しくば自然主義であつて、而して確に其一面をも畫風の中に所有して、而も大體の調子は却て其反對のローマンチシズムとか、理想派とかいふものに近いといふ結果になる點なぞ、兩方とも似て居ります。佛國の印象派は或る評論家の言に從へば、かのコローやルソー等のローマンチシズムに反動して起つた結果といふのでありますが、兎に角始めの旗幟は寧ろ極端に、科學的な寫實的な精神から來て居た。即ち色彩の上で我々が普通にローカル、トーン(部分色)を、存在して居るものと認めるのは間違ひであつて、これ等は光線の我等が眼を刺戟する其價値に由つて出來る相違に過ぎないので、畫家も亦其畫の上に直接に部分色を塗るのは自然の方則に違つて居るから畫面には唯二つか三つかの原色を塗つて、それが我等の眼を刺戟するに及んで始めて我々が普通に考へて居る明暗の度、即ち光線の價値が種々に現はれて來るやうに爲なければならぬといふのが根本の意である。即ち非常な寫實派たる所以である。
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*註1:前派
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
*註2:運命
「運」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:畫風・畫家・其畫・畫面
「畫」の俗字体(一説に本字とも)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ga_kaku.jpg
*註4:所有・所以
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註5:調子
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg
*註6:近い
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註7:評論家
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg
*註8:起つた
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。
*註9:精神
「精」の正字体。旁の「青」の「月」は「円」。
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註10:色彩
「彩」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sai_irodori.jpg
*註11:普通
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註12:部分色
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註13:認める
「認」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mitomeru.jpg
*註14:間違ひ・相違・違つて
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註15:過ぎない
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註16:明暗
「暗」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/an_kurai.jpg
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■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1