「アイスひとつくださいな」
- カテゴリ:30代以上
- 2013/07/22 08:49:52
「今日はちっとも売れないな」
夏にしては涼しい日の午後、公園のベンチに腰掛けて、アイスクリーム売りのおじさんがつぶやきます。
子供連れのお母さんや散歩を楽しむ恋人達、芝生の上を走り回る子供達やお弁当を広げる家族連れ。
公園にはたくさんの人がいますが、おじさんの掲げる「アイスクリーム」の旗には誰も目をとめません。
「もう疲れちゃったよ。休憩しようよ」
「えーっ、また?」
うとうとしかけたおじさんの耳に、こんな会話が聞こえてきました。
「今日はいつもより涼しいんだから、もう少し頑張ろうよ」
「そんなの関係ないよ。朝から飛び回りっぱなしだし、冬じゃないんだから暑いものは暑いのっ」
「しょうがないなー」
声のする方を見ると、おそろいの黄色と黒の縞模様の服を着た小さな女の子が二人、ベンチの隣に腰掛けていました。
「お家のお手伝いかい?」
おじさんが話し掛けます。
「そうよ。赤ちゃんが生まれたから忙しいの」
「人使いが荒いんだよねー」
「そうかい。それでお母さんのお手伝いをしているんだね」
「まあ、そんな感じね。それがわたし達の仕事でもあるしね」
「一日中行ったり来たりで大変なんだよー」
生まれて間もない赤ちゃんは何かと手のかかるもの。
お母さんひとりでは大変です。
みんなで助け合わないといけませんね。
「ははは。それは大変だね。じゃあよく頑張っているご褒美にアイスをおごってあげるよ。と言っても、おじさんが売っているものだけどね」
箱からアイスクリームを取り出しながらおじさんが言います。
「え?それは悪いわ。売り物なんでしょ」
「わーい。アイス~」
「気にしなくても良いよ。どうも今日は全然売れないみたいだからね。このまま持って帰るより、少しでも喜んでくれる方がおじさんも嬉しいのさ」
アイスを二人に手渡しながら、おじさんが言います。
「そういう事なら・・・あ、冷たくて美味しい」
「ばくばく。べろべろ」
「もう。みっともない食べ方しないでよ」
「らっておいひいんらもん」
「ははは。良い食べっぷりだ。良かったらもう一つあげるよ」
「ありがとう。でも、どうして売れないの?」
「わーい頂戴っ。こんなに美味しいのにねー」
「今日は涼しいからね。こんな日はアイスを食べようなんて思わないのかもしれないね」
淡い雲に覆われた空を見上げながらおじさんが言います。
「そういうものなの?でも、売れないと困るでしょ?」
「アピールが足りないんだよー。わたし達があの真ん中で豪快にアイスを食べれば、みんなも食べたくなるんじゃないかなー?」
「みっともないから止めなさい」
「エ~。良いアイディアだと思うけどなー」
「それに、そんな時間は無いでしょ。・・・そうだっ。あれを使えば」
「それはなんだい?」
女の子が肩に提げた鞄から取り出した小さな小瓶を見つめて、おじさんが聞きます。
「お花の香り。採れたてよ」
「わたし達が集めたんだよー」
「これをアイスに振りかけて・・・ちょっとペン借りるわ・・・旗をこうすれば・・・はい、出来上がり」
「お花の香りのアイスクリームあり・・・はんぺん?」
「『あります』って読むのよ」
おじさんがあっけにとられて見つめる中「お花の香りのアイスクリームあり〼」と書き直された旗から、淡いお花の良い香りが公園中に漂いはじめます。
「これはいったい・・・」
「ほら、お客さんだよ」
「来た来た」
おじさんが女の子に話し掛けようとしたとき、早速お客さんが来ました。
お母さんに手を引かれた女の子です。
「お花のアイスくださいな」
「良い香り。ねえ、わたしも食べたいな」
散歩をしていた恋人達もやって来ました。
「やあ。本当に本物のお花みたいな香りですね」
「どうやって作っているのかしらね」
「お母さん。わたしにも買って~」
みるみるうちに行列が出来ました。
「やった。大成功」
「ねえ、わたし達も・・・」
「もう休憩は終わりよ。おじさん、アイスありがとう」
「美味しかったよ~。また明日も来ていい?」
「図々しいわね」
「ああ、いつでもおいで。こちらこそありがと・・・」
おじさんが振り向くと、そこにはもう二人の姿はなく、蜜蜂が二匹、大きな向日葵の花の蜜を忙しそうに集めているだけでした。
暑い夏の日。
今日もお花の香りのアイス屋さんは大繁盛です。
「アイスひとつ、くださいな」
おしまい
コメントありがとうです。
趣味で書いたお話を時々載せているのです。
よろしかったら、また読んでくださいね。
普段はしょうもないことしか書いてないですけど(笑
(#^.^#)
もしかして、
絵本作家さんですか(笑)?
心温まりました。
次作も楽しみにしています^^。
いつも感想をくれてありがとう♪
えらそうなことを言っているけどね
「面白かった」って言ってもらえると
素直に嬉しいのです。
(#^.^#)
優しい女の子(本当は天使?)と売れないアイスクリーム屋のおじさんの心温まるお話~♪
可愛くて~面白かったです^^v
もしかしたら~女の子は、雨の妖精さんの化身かな~?とも思いながら読んでました。
男の子(弟?)の「皆の真ん中で、豪快にアイスを、食べる」のアイディアも良いと思いましたw
困ってるアイス屋さんが、いらしたら~私も横で「あ~疲れた~」って言ってみようかな~w
アイスが、貰えるかも…w やっぱ~オバサンじゃダメかぁ~w
二人組の女の子を書くと、何故かいつもこうなってしまう(笑
(#^.^#)