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■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本(9)

■近代文藝之研究|講話|歐文學中の日本 (9)

ミウラは鏡をハナに突付けて、此中の肖像の男は何人であるかと詰問する。おハナは鏡を取上て見ると美しい女の顏が映るので、これも大に愕いて、忽ち嫉妬の焔を燃やして、これは屹度ミウラの愛して居る女の肖像であらう、斯樣な美しい情婦があるに、自分が壁にかけてある繪のやうな醜い女であるかと、突如と起つて壁の繪を引下して鏡の中の女の像と比べて泣く。男は異しんでそれを女とは何事ぞ、男も男、そなたの情夫であらう、誰であるかを白状しろといふ。それで互に夫婦喧嘩の推問答があつて、終りに老人のトヨが屏風の後から再び出て來て、言ひ爭つて居る兩人を宥める。おハナがこれを見てくれといつて差出す鏡を見ると、今度は老人の顏が寫つて居るのであるから、トヨは態と冷やかに、此鏡中には唯一人の白髪の老人があるばかりで他に何物も無いといふ。此老人の言に愕き左右から若い二人の男女が窺くと、今度は三人の顏が皆寫つて居るので、再び吃驚する。ミウラは叫んで不思議な事だ、おハナの顏が其所に出て居る、そして老人の顏があるといふ。おハナは、それから實にも自分の愛する夫ミウラの顏も寫つて居るといふ。ミウラは愕いて、それが自分であるかといふ。おハナは、何うも不思議な事であるから理由を説て聞してくれといふ。



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*註1:ミウラは鏡をハナに
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「鏡」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kagami_kyou.jpg

*註2:肖像
「肖」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syou_ayakaru.jpg

*註3:嫉妬の焔
「焔」の俗字体。(「焔」自体が『「焔」の「旧」の部分を「臼」と書く正字体の略字)
http://www5e.biglobe.ne.jp/~hanadada/tougetsu/moji/en_honoo.jpg

*註4:情婦・情夫・夫婦
「情」の正字体。「月」は「円」。
「婦」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hu_tsuma.jpg

*註5:突如
「突」の旧字体。「穴」+「犬」。

*註6:起つて
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。

*註7:白状
「状」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyou.jpg

*註8:終り
「終」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/owaru.jpg

*註9:屏風
「屏」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hei_shirizoku.jpg

*註10:其所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註11:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註12:理由を説て
「説」の旧字体。旁は「兌」。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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