Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(90)

 「…それでは、余計にお断りできませんわね。…今からお伺いしますの?」
 「近い、とは言ったが、街中にあるわけではないのでな、その入り口は。妙齢の愛娘を、そんな物騒なとこに連れ出すわけにはいかない」
 「お言葉を返すようですが、私の育った所は、ここよりもはるかに田舎なんですが」
 「ここはそなたの育った所ではないし、そなたも…第一、王都からここまで、どれくらいあると思っている?」
 「まさか……またここまで休みなしで?」
 「さすがにそんな無茶は」
 「上級貴族のお忍び」という雰囲気の衣装をまとった随身――あとで聞いたところによれば、実際に貴族の出身らしい――が、気の毒そうな声音で言う。
 「ここに来るために、二週間の「静養休暇」をとってきました。その間、妃殿下が国事代行をされています。その代わりに、今年の「冬至祭」の準備・進行は王妃に一任する、と一筆置いてこられまして」
 クリスが喉の奥でくぐもった呻き声をあげた。冬至祭を王妃が仕切ると、クリスにいったいどんな具都合が生じるというのだろう?
 「おかげで、今年の冬至祭は、昨年よりも盛大になる、という事が確定いたしておりまして」
 「ああ、あの…申し訳ありませんが、私は毎年その時期になると体調を崩すので…」
 断りのセリフを入れようとしたクリスを遮る声が上がる。
 「どうせ会いに行くなら、ぜひとも身柄を押さえておくように、と言われておってな。そなたと」
 そこで言葉を切ってこちらを見る。
 「そなた、それからそなたの妹御もな」
 …は?
 どうしてだ?
 クリスはともかくとして、俺やセシリアまでもが、なんで王宮の冬至祭に身柄を押さえられにゃならんのだ?
 「アレクはともかく、セシリアは…あんなお祭り騒ぎに巻き込むのは、体力的に難しいのでは、と思うんですが。しかも、去年より大掛かりになるだなんて…」
 「それは十分承知している……と思う。万一の時の看護体制も整える、と言っている」
 クリスが茫然としている。
 めったにない事ではあるが、事が自分にも及んでいるので、面白がってばかりはいられない。
 「…アレク、ごめん。私の浅慮のせいで、セシリアまで巻き込んでしまう事になりそうだ。思った以上に気に入られてしまったみたいで……それこそ、身内の不幸でもない限り、阻止できそうもない」
 ……あんな儚げな見かけなのに、意外と手強い人らしい。「金瞳」持ち二人がそろって無条件降伏するとは…
 「いや…セシリアは喜ぶんじゃないかと思うが……だから問題なような気が…」
 「話が横に逸れておしまいになっているご様子ですので、元に戻させていただきます」
 冬至祭に引っ張り出されるのを、どうやって断ろうかと算段している――おそらくはクリスもそうだ、と思いたい――所へ、冷静な突っ込みが入った。
 「あなた方お二人ともが、これから外出なさりたい、と主張されたとしても、安易にそれを許す訳にはいかないのです。…理由はお解りですよね?」
 クリスがものすごく嫌そうな顔をする。その父親までもが表情を曇らせる。
 「…それを理由に行動を制限するのは、護衛としての職務を放棄するに等しい言葉だとは思わんか?」
 「言葉遊びを弄するために、ご自分で一度決定した事を覆すふりをなさるのは、やめていただけませんか?周りの者が困惑します」
 …ああ、ここにも、クリスの性格の原型が。
 「そういうつもりで言ったのではないがな。…とにかく、そこへ赴くのは、休息をとってからだ」
 改めてクリスに念を押す。
 「承知しました。…ところで、私たちは明後日あたりここを引き上げるつもりでいるんですが…」
 「…が?」
 この娘は何を言い出すつもりか、という怪訝な表情で先を促す。
 「…こちらの…ジリアン大公の魔法使いの方に、大分お金をお借りしていて…返済の方をお願いしたいんですが。お願いできますでしょうか」
 そういえばそうだった。あとでまとめて請求する、と言っていた先は、この人のところだ。
 「…ああ!なるほど。」
 なにかが腑に落ちた、という表情で魔法使いの方に顔を向ける。

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