Nicotto Town


グイ・ネクストの日記帳


ジャンヌ・ラピュセル9


「……わかった。ここは牧師殿に従い、やってみよう」と、ハーメル公爵はサーベルを抜き放ち、ジャネットの胸へ突きを繰り出す。
深々と胸に刺さった。ハーメル公爵はサーベルを抜く。
血しぶきは上がらなかった。

「……そなた死人(しびと)なのか?」と、ハーメル公爵は聞く。
「しびと…死んだ人という意味合いでしょうか?」
「そなたの身体はあの魔女の身体と同じということか…魔力によりて支えられてきた身体は魔晶石の働きもするが…敗北すれば骨となりて塵となって消える。おそらく右腕を失った魔女はもうどこを探しても見つかるまい。……そなたはデスサイズ、神に与えられし唯一の武器に生かされている。つまり、神の意志に背くことはできない。そう言いたかったわけじゃな。なるほど、なるほど。このハーメル、そなたの命を賭けた申し出、しかと承った。今後一切疑わん。そなたにわが精鋭部隊を譲る。好きにわしの資産も使うとよい。そなたが役目を終えるその日まで。しかしそれでそなたはしあわせなのか?」

「ニュクス様の辿られた道ですわ。私はそれが何よりもしあわせ。公爵様ありがとうございます」と、ジャネットはおじきをする。
ジャネットの背中から黒い羽が消える。目の色も元に戻る。ジャネットは突如として眠りについた。
それをリルルが支える。リルルは不覚にも涙を流していた。
(役目が終われば死を迎える。それでほんとにこの少女は満足なのか?あの時、デスサイズのことを話さなければ…)
「リルルさん…泣かないで。ジャネットはわたしに言ってくれたわ。次の人へ…と」
「次の人へ………」と、リルルは聞き返す。
「その話、わしも聞きたい。ぜひ聞かせてくれまいか」と、ハーメル公爵も身を乗り出してきた。

「はい…。あの日は雨が降っていました。わたしは自分がどこから来たのかさえもわからず彷徨っていました。もう限界でした。空腹でこれ以上歩きたくない。もうこれ以上生きていたくない。死んでしまいたいと、わたしはトゥーランドットの町を彷徨い歩き、どうせ死ぬなら丘の上の教会で死のうと…わたしは教会まで必死に歩き、茶色の大きなドアにもたれかかろうとしたら…ドアが開いたんです。とても不思議に思ったわ。わたしが来ることを知っていたのかしらって。ドアの中から出て来たのはジャネットでした。「シスター、この子にスープをご馳走するね」って言ってくれました。スープをもらい、一緒にお風呂に入ってくれて、頭と身体を洗ってくれた。わたしが「どうしてこんなに優しくしてくれるの?」って聞いたら。「私もね。ここのシスターにこうやって身体を洗って貰ったり、スープをご馳走してもらったのよ。だからリリィも次の人にやさしくしてあげてね」そう、次の人へ。それがわたしがあの教会に残って次の人にやさしくしてきた理由であり、ジャネットこそは、わたしの命の恩人であり、神ですわ」と、リリィはわぁーーっと声をあげて泣き出した。リルルもつられたのか、涙を隠すこともなく声を出して泣いていた。
ハーメル公爵は涙を流しながらもリルルに支えられた少女ジャネットに近寄りささやいた。

「………ニュクス・ロレンス・ジャンヌ・ラピュセル。それがお主が敬愛するニュクス様の名前じゃ。ここにニュクス様の手記もある。これをそなたのエプロンのポケットに入れておく。それからそなたのために銀で刺繍したイブニングドレスを用意しよう。そなたは仮にも「ただ一人の聖女」なのじゃからな」と、ハーメル公爵はそれだけ言うと「撤退じゃ」と、部隊を引き上げてエクスシア城への帰路についた。
「次の人へ」と、リリィはつぶやく。(ジャネット、わたしの小さな神様。今日もいい寝顔ね。わたしもあなたについて行く。あなたが役目を終えるその日まで)
「次の人へ…」(そんな事は考えたことが無かったな。牧師だから。と、義務感からボクは仕事をしていたし、学んできた。…次の人へ。もらったやさしさを次の人へ。できるようになれるかな)と、リルルはいつものように背中にジャネットを背負い、エクスシア城に向かって歩く。リリィはそれを横から見ながら近づき(今は全部忘れてあなたの寝顔を見ていたい。かわいいわ、ジャネット)ジャネットのおでこにそっと口づけする。口づけをした後、ジャネットが少し反応する。
(うふふ、どんな夢を見ているのやら)と、リリィは笑った。

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2013/04/28 01:05
次の人へ・・・そうやって 全ては廻っている

あ^^ でも 優しさをくれた人にも返したいな (*´∇`*)
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2013/04/21 08:47
読み終わってなんだか少し涙ぐんでしまいました

次の人へ

いい言葉です

リルルさん、ありがとう
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2013/04/17 23:25
もらった優しさを次の人へ・・・すごく素敵ですね(*^^)v

そうありたいと思っています(*^^)v



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