ジャンヌ・ラピュセル7
- カテゴリ:自作小説
- 2013/04/17 23:15:18
主戦場エクスシア
アルフガルド軍はミドガルズオルム、最後の公爵ハーメルの精鋭部隊に手こずっていた。
オーク、リザードマン、ミノタウロス…どの魔物部隊を投入してもただの一度も勝つことなく、今日まで時を過ごした。
本部から増援として来たのは魔女ストリゲス卿と、呼ばれるアルフガルド国王直属の近衛兵士様か。と、軍司令官ミゲルニアは黒いマントを羽織った魔女様を見て苦笑いをする。(国王様と同じ赤く濁った眼をしているじゃないか。あいつも魔物に違いない)
「ミゲルニアとやら、状況を説明せよ」と、陣営の上座にさも当たり前と言わんばかりに座り、足を組んでミゲルニアを睨んでいる。
(嫌な女だ)「はっ!ただ今の状況は前線でオーク、ミノタウロス部隊が戦っておりますが、全滅するのは時間の問題かと思われます。あと私の水晶ではこれ以上の魔物を呼ぶのは困難になりつつあります。それで手紙にも書いていましたように新しい水晶を持って来てもらえたでしょうか?」と、ミゲルニアは自分の要望も踏まえて報告を試み、ストリゲスの反応を見る。
「お前、私に敵意を持っているな」と、ストリゲスはミゲルニアの目を見つめる。
「めめめ、滅相も無い。決してそんな事は…」と、ミゲルニアは顔の前で手をふる。(馬鹿な、心が読めるのか。いや、そんなはずはない。そんなはずはないはずだ。たしかにこいつはほんとに嫌な女なだけだ。ああ、きっとそうだ)
「くくく、フハハハハハ…それで敵意を隠しているつもりか。お前からは黒いオーラが湧き上がっている。いい餌になりそうだよ。さすがは魔王様が用意してくださった贄(にえ)だ。さて」と、ストリゲスは組んでいた足を地面に降ろしてテーブルを軽く持って立ち上がり、呪を唱え出した。
「にえ?用意???私が!!?」と、ミゲルニアは顔から何かが引いて行くのが自分でもわかった。
(逃げるんだ!水晶の効果範囲はせいぜい1キロ園内と聞かされている。今から走れば逃げれる…ってあの呪の言霊はどれくらいで終わるんだ?もしかして、もう終わるとか無いよな。ウソだろ?一体何の冗談なんだ!)
魔女ストリゲスの右手が蛇に変化する。その蛇は大きくなり、大蛇となりて背中を向けて逃げ出したミゲルニアを飲み込む。黒き魔界の炎をまとった破滅の大蛇…「ファフニールよ、魔王ギュスタフの名において命じる。わが同胞たちを倒し続けるエクスシアの精鋭部隊を魔界の炎によりて炭も残さず焼き捨てよ」と、魔女ストリゲスは命じる。
破滅の大蛇が戦場にゆっくりではあるが破壊の炎をまき散らしている様子を見て、魔女ストリゲスは、ほほ笑んだ。
(見てください、魔王様…世界が壊れて行きます。見てください、魔王様…あの精鋭部隊の引きつった顔を。青ざめる顔を!逃げ惑う姿を!そしてオークや、ミノタウロスたちをそのまま飲み込み、敵も味方も無く、暴れる破滅の大蛇を!)
黒き魔界の炎をまとった破滅の大蛇ファフニールは針葉樹林を焼き払い、精鋭部隊を撤退させている。
ストリゲスは戦いのよく見える丘の上にオークたちに命じて椅子を設置させて、テーブルも運ばせて紅茶とお茶菓子を用意させた。
長い髪で片目を隠し、紅茶を一口、口に含んでから戦場に目をやり、ほほ笑む。
(もうこの戦いは私の手の平の上……数々の魔物たちを倒してきた精鋭部隊の最後を拝ませてもらおうかしら)
その頃、ハーメル公爵は陣営の中の中心の椅子に座って赤髪の頭部をかきむしる。(謎の大蛇の出現で、わが部隊は撤退を余儀なくされている。だからと言って、今、目の前に来ている「ただ一人の聖女」を名乗るこの娘一人を戦場に赴かせてもいいのだろうか?)