★　ペッシェビーノと椎茸で　★


やぁ今晩は。いよいよ新年ですね。
ちょっと昔は年明けそうそうなんて皆さん家に篭っちゃってて、呑み屋なんざ寂しい限りだったもんですが、最近はそうでもないもんですねぇ。
店主としちゃありがたい限りですよ。
さぁ今日は何でいきましょう？　ワインでも？
新年らしく目出度そうなの？　そうですねぇ……

「ペッシェビーノ」

赤・白・ロゼとありますがどれからいきます？　赤から？
はいはいかしこまりました。
どうぞ、これがボトルです。
面白いでしょう？　この魚の形をした瓶、結構人気あるんですよ。
そこらのデパートでイタリアンフェアなんてやる時は必ず並ぶワインです。
軽くて呑み口もいいので、ワイン初心者にもいいヤツですよ。

つまみでも軽く作りますか？　さぁ今日は何があったかな。
そうそう、椎茸のいいのを買ってあるんで、これの軸をさっと炙ってわさび醤油でさぁどうぞ。
椎茸の軸ったら皆さん捨てちゃいますけどね、これがなかなかいけるんですよ。
細く裂いて掻揚のネタにしたり、さっと炒めてオムレツの具にしたり。
酒の肴に油もんはあまり良くないんで、ウチじゃ掻揚はしませんが。
そうそう、安い時にたくさん買って細く切ったヤツを味醂と醤油で煮詰めて、３～４日は冷蔵庫で持ちますしね。
ラーメンの具なんかにいいですよ。
あぁ勿論椎茸の傘もちゃんとありますよ。
「椎茸とエビ・イカのマリネ」
細く切って茹でた椎茸と同じように、さっとゆでたエビとイカ。や、冷凍のやつで十分ですよ。
こいつらを市販のマリネ液に漬けとくんです。
最近はマリネ液もスーパーで売ってますから便利ですね。
簡単ですから、休みの日にでも作ってみては？　きっと奥様も喜ばれますよ。
え？　まだ独身ですか。こりゃ失礼を……
や、休日を手作りの肴とワインってのも優雅じゃないですか。
気の合う仲間同士で呑るのも楽しい死。何ていっても安いですからね、椎茸。

えぇ、この瓶、たまに持って帰られる方も見えますよ。花でも飾るんでしょうね。
大ぶりのガーベラや向日葵なんかが似合いそうですね。今の季節なら温室のチューリップってとこでしょうか。
そんなのを横目で見ながらさっぱりしたイタリアのワイン、肴は日本の椎茸で。
いや本当に安かったんですよ、椎茸。

あぁ、一本空いちゃいましたね。呑みやすいからぐいぐいいけるでしょう。
はい？　今度は白を？
白はこれまたさっぱりとした辛口で、呑みやすいですよ。
それにしてもお客さん、今夜は珍しく酒がすすみますね。

……はぁ……三年前に弟さんが先に嫁さん貰っちゃって？　出来ちゃった婚ですかぁ、やりますねぇ弟さん。
……なるほど、家に居ると遊びに来てる甥御さんにお年玉と遅いクリスマスプレゼントねだられて……？
……ご両親からは自分はまだか？、と？
弟さん一家が滞在してる間はお家に居場所がない、と……
……なるほどなるほど。
なぁに、今のご時世、急いで所帯持つ必要もありゃしませんよ。
生涯独身でも、なにも困る事はありゃしませんしね。
のんびり呑ってりゃ、いずれいいご縁もありますよ。
今夜だって、ほら、こんなナイスバディなボトルと巡り合ったじゃないですか。呑んでよし、飾ってよし。

よし、ロゼも開けちゃいましょうか。
この一本はアタシからのお年玉に差し上げますから、一緒に呑りましょうや。
はい？　やだなぁ、同情なんかじゃありませんよ。
アタシもこの年で独りもんですからね、お互いさまってことで。
いずれいいご縁に恵まれますように、ってボトルにお願いしときましょう。
洒落の利いたイタリアの魚のボトル、何となく願いも聞いてくれそうな気がしませんか？