げるぞるさんの日記 | ニコッとタウン

■近代文藝之研究｜時評｜オペラは亡ぶべきか(２)

カテゴリ：その他
2013/01/08 22:27:50

■近代文藝之研究｜時評｜オペラは亡ぶべきか　(２)

實人生は歌ふよりも話すを自然とする。ワグナー自らがロマンチック、オペラと呼んだのは誠に故ある事だ。ロマンチックなものにして始めてオペラになり得る。リアルなものは其の反對である。而して近代の藝術はリアルな點を特色とする。但し是れはワグナー式のオペラに就いて言ふのであつて、音樂が或る種の劇の中に這入つて來て、濃厚な情緒や抒情的な箇所と結合することは、將來盛になるべき傾向であらう。殊に抒情詩人と音樂家との聯合は最も必要な事であり、また今のリヒャード、ストラウスなどに見える傾向である。たゞオペラに就いては、何うも其の題材が本來歌謠的抒情的であるものゝみ適當であるやうに見える。ワグナーが作に就いて見ても、神話的材料か、それでなくば『マイスターシンガー』『タンホイザー』等の如く本來が歌謠的の材料であるものに限られ、また現代ではフンパーデヰ［＃「ヰ」は拗音小文字表記］ンクの輕いオペラの如きが小供のお伽噺に世界を取るたぐひである。而して此の如きオペラ的の題材には限りがある。斯やうな意味でワグナー式オペラが是れから先益々發展するか否かは疑問になる。

［＃ここで字下げ終わり］

以上は原文の大意を取つて説明したのであるがワグナー、オペラの前途に關する疑問の趣旨は明である。

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＊註１：實人生は歌ふよりも

原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。行頭は前ページより引き続き１字下げ。

＊註２：近代

「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註３：音樂

「音」の正字体。

http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

＊註４：情緒・抒情

「情」の正字体。「月」は「円」。

「緒」の正字体。

http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_o.jpg

＊註５：箇所

「所」の旧字体。

http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

＊註６：必要

「要」の俗字体。

http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg

＊註７：リヒャード、ストラウス

リヒャルト・ゲオルク・シュトラウス(Richard Georg Strauss／1864年～1949年)のこと。ドイツ後期ロマン派を代表する作曲家で、交響詩『ドン・ファン』『英雄の生涯』やオペラ『サロメ』『ばらの騎士』などの作曲で知られる。『ツァラトゥストラはかく語りき』の曲もリヒャルト・シュトラウスの作。

＊註８：適當

「適」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註９：神話的

「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。

＊註10：フンパーデヰ［＃「ヰ」は拗音小文字表記］ンク

エンゲルベルト・フンパーディンク(Engelbert Humperdinck／1854年～1921年)のこと。ドイツの作曲家。『ヘンゼルとグレーテル』が有名。他にメルヘン・オペラと呼ばれる『いばら姫』『王子王女』『いやいやながらの結婚』等。

原本には「ヰ」は小文字表記ではなく標準表記となっているが、他の「ヰ」拗音箇所は小文字表記なのでその原則に統一した。

＊註11：益々

「益」の旧字体。

http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/eki_masu.jpg

＊註12：原文

「文」の旧字体。