短編:掃除なう
- カテゴリ:自作小説
- 2013/01/03 13:30:25
おはよう。
テレビはもう付かない。電気はもう通っていない。
それでもリビングは日の光でピカピカで、私はもう随分カーテンを使ってないことに気づいた。
「今日は掃除をします」
独り言である。この家には、私しかいないのだ。
「だから、もうつかえないんだよ」
コンセントにくっつけても、掃除機は沈黙したままである。もう捨ててください、僕はもう用済みなのです。ゴミです。つられて、私の気分も暗くなった。
仕方がなく、箒をもってきて、パッパパッパ掃き出した。慣れたものだ。中学校での掃除は、いつだってコレとちりとりを使っていた。私のクラスでの掃き方には、「階段方式」というものが使われていた。どうでもいいことだけど。
一階の物置に使う部屋からはじめることにした。窓を開けると、まるで世界が雪崩込んでくるかのように、頬に冷たい風を浴びた。もう冬になったのだ。
一人で暮らすようになってから、日にちを数えるのを忘れていた。何も考えないで生きていた。
家中を掃除する。無心である。私は掃除をするロボットだ。息をしているだけで、生きてはいない。
約一ヶ月ぶりの掃除で、雑巾は真っ黒、ゴミ箱は埃だらけ。代わりに家は、以前のように綺麗だ。一番最後に、私は二階の弟の部屋を開けた。
そういえばアレは、弟の買った掃除機だった。弟は自分の部屋に少しでも埃が落ちていると、まるで狂ったかのように掃除機をかけた。小4の時にお年玉で、ついに自分だけの掃除機を買ってしまった。そのくせ、風呂に入るのが彼は好きじゃなかった。
お年玉をそんなことにつかうなんて、本当にあの子は変わった子だった。何を考えているのか、半分もわからなかったし。だけど、多分弟が一番心を許していたのは、私だったはずだ。世界中で一番私だったはずだ。
その証拠に、弟の部屋は綺麗である。私が来るのを知っていたのか。
私は、弟の部屋のベランダに出た。高台にあるこの家からは、私たちの住む町を一望できる。私の中学校がある。弟の小学校がある。最近立ったマンション。このベッドタウンのシンボルである、古い図書館。
弟と日暮れに、この崖のような丘から町を眺めたものだった。すべての物が小さく見えた。日が暮れるに従って、窓に灯がついていく。暖かで黄色い灯が私たちの住む町から溢れ出してくる。
今は違う。漆黒の空を更に切り取ったようなビルのシルエット達は、一つの光も灯ってはいない。もちろん私の家も同じである。
雑巾を握りしめたまま、何も言えずに立っていた。掃除機は捨ててしまおう。私の大好きな弟のために。