Nicotto Town



【小説】成田くんと久保寺さん 2

第二話(全三話)

その後、ボクが隣のクラスに行く用事は無かった。
生物部は二人の後輩が入ったけど、園芸部には5人も入ったらしくコチラから園芸部の手伝いをする事も少なかった。
しかし、これで5年連続で生物は男ばかり、園芸部は女ばかりという構図らしい。
2年生は行事も多く、体育祭、修学旅行、文化祭とイベントの中心になりやすい。ただでさえ不器用なボクは日々をこなすだけで精一杯であった。
だから、久保寺さんとは会話をする機会など一度も無かった。いや、実際に何かを話したいという訳じゃない。ただ、あの席を立ったしぐさと指先から彼女の名前と顔はしっかり覚えたというだけ。
時々、トイレに行くのに遠回りをして彼女を見かけられるかな、なんて思ったに過ぎない。
いやホント。その程度。

騒がしかった文化祭が終わった後、じゃんけんで小沢に負けたボクは生物部の部長に就任した。
『いや、こういうのはコーヘーの方が合ってるよ、実際』
と含み笑いしている小沢から新部長への激励を頂いた。
その日は部長引き継ぎで、今まで見たこともないファイルを見せられたり、片づけていたりした。
そこに、『失礼します』と透き通った声がした。
『この度、園芸部の部長になりました久保寺真理子です』
深くお辞儀をした彼女の黒髪がサラサラと流れていく。ボクは机の上に不作法につみあがったファイルを落とさないように支えながらゆっくりと頭があがっていく様と指先に見とれていた。
すると、前部長の先輩が
『こっちにいるのが、新部長の成田ね』
と紹介してくれた。ボクは慌てて立ち上がって自己紹介した。
その時は色々な事が頭の中をぐるぐると回っていたと思う。名前はマリコって言うんだ、とか指先をじーっとみてしまうのは失礼だなとか、そういえばしっかりと顔を見たのは今日が初めてだなとか。
そして、綺麗な瞳だなあとじっとと見てしまったので、逆に失礼だったんじゃないかって思ったりしていた。

大きな部活の新部長ともなると、来年への抱負だとか意気込みなんていうのを掲げるんだろうがウチのような弱小部ではとりあえず今まで通りでというのが通例である。
来年の予算割り当ての為の会議が新部長としての最初の仕事であり、ボクとしては退屈な時間が早くすぎてくれと願いながら座っていた。去年と同じ金額が配分されれば申し分ない。
ところが、園芸部の新部長はボクとは全く違っていた。
彼女はいかに園芸部が学校の美観に貢献し、より生産的な活動をしているのかという事を完結にレポートにまとめ、今後の部活動に更なる上乗せ予算が早急に必要である事をその場にいる全員に納得させるスピーチを行った。
結果、来年度の予算を大幅に増額させ、ついでによく手伝ってくれるという事で生物部にも1万円の上乗せ予算をこぎつけたのである。
会議終了後に予算増加への手腕の賛辞と生物部分へのお恵みに対してのお礼をを彼女に伝えると、
『後輩が多いとお菓子代もバカにならないし、生物部にはいつも手伝ってもらってるから』
と朝起きたら顔を洗うのが当たり前のようなサラリとした答えが返ってきた。でも、最近は生物部が園芸部の手伝いを殆どしていないと思うんだけど。
『情けは人のためならず…かな』
ありがたや。

彼女とはそれ以来、ちょくちょく話をするようになった。廊下で会ったりする程度に。
隣のクラスで木村さん以外で顔と名前が一致する唯一の人となった彼女をその頃から「久保寺さん」ではなく敬意を込めて「真理子クン」と呼ぶようになった。久保寺さんと呼ぶのが恥ずかしいというのもある。
『マリコクンの方がよっぽど恥ずかしいと思うけど?』と小沢に言われ
『成田っちてば、やっぱりオモシロイよねー。ニャハハハ~』と木村さんに言われた。
こればかりは自分の感情だからしょうがないと思う。
真理子クンと話して驚いたのはその知識の多さである。自ら勉強は好きだと言っていたがボクの得意な神社仏閣にまで精通していて、奈良の円成寺にある大日如来像が、大日如来像の中で唯一の国宝である事についてまでも知っていた。
もちろん、それ以外の事も良く知っていて、対小沢にするうなずきの相槌ではなく、感嘆の相槌をする事が多かった。
美貌も教養も兼ね備えた、まさにスーパーレディのクールビューティである。ボクとは正反対な感じで、さぞ言い寄る男子や友人も多いのかと思ったが、少し近寄りがたい雰囲気があるようで男子は遠くから見ているようだし、女子で良く話す人も数名といった感じであった。
木村さんにそのあたりを聞いてみたら
『ん~~、久保ちゃんとはグループ違うからな~』
『ユリカと久保寺とでは、頭のデキが違いすぎらぁ~。住んでる世界が違うんだな。だっはっはー』
と言った小沢の背中を蹴っ飛ばしながら答えてくれた。
その点について真理子クン自身は特に気にしている様子もないし、ボク自身もあまり他人の目を気にしたことが無いというのが現状である。

いつだったか、真理子クンが一人でこっそりプランター何かを植えている事があった。気づかれないように近づくと
『春になったらおいしく育ってねん、イチゴちゃん』
とニコニコしながら水を与えている事があった。クールな彼女でもそういう事を言うんだなあとこちらまで微笑んでしまった。
ちょっと前に、学校帰りのバスの中で空いてる席があったので座ったら、隣が真理子クンだった。
話しかけようとしたら、すでに彼女は夢の中だったのでボクは文庫本を開いた。すると彼女が勢い良く舟をこぐので頭を壁に何度か激突させていた。
それはもう、がつん、がつんとすごい音がしていたので持っていたマフラーを枕がわりに彼女の頭に乗せたら
『はにゅにゅぅ~』と寝言を言うのが余りにも可愛らしくてボクの笑い声で起こさないようにするのに必死だった記憶がある。

街に吹く風に冷たさがだいぶ増した頃、昼休みの時間に花壇の花に水やりをする真理子クンと話をするのが日課となっていた。
話すと言っても、花壇の花の成長についてだったり、遠くの空を眺めたりと慌ただしく過ごす学校の中で切り取られたような時間の流れをゆっくりとかみしめるといった感じ。
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴ると、『じゃぁ、天気が良かったらまた明日』と別れる。

そんな日々が続いた。

つづく

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2012/10/25 21:59
おお〜〜ヽ(^。^)ノ

楽しく読ませていただいてます

明日も楽しみにしてますね。
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2012/10/25 21:47
>奈良の円成寺にある大日如来像が、大日如来像の中で唯一の国宝である事についてまでも知っていた。
しゅーひっちがそんな事を知っていることに( Д) ゚ ゚だ(σ・з・)σYO☆

オイラ、大日如来より阿弥陀如来の方が好き…
だって極楽浄土に連れていってくれるから(*´ω`*)アーハン

って小説の感想ちゃう(;´∀`)

久保田くんとはどうなるんだ~
気になるぞ~!
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2012/10/25 19:41
スーパーレディのクールビューティーといえども
寝起きはさすがに『隙ありっ』だろうと思いきや
ね、寝言ときたか・・・w
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2012/10/25 10:31
ほほ(・∀・)━━━━!!
楽しみだ━━━━!!
またあした━━━━!!。
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2012/10/25 09:40
えーっと
二話目になります。
今回もだらだらと無駄に長い。
久保寺真理子クンの性格がイマイチ出ていませんが、そこらへんは読んだアナタの脳内で補完してください。

とりあえず二話目終了。
明日、完結!




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