10月自作/寄り道『恋迷路』
- カテゴリ:自作小説
- 2012/10/24 02:01:19
いつだって現実はうまくいかない。
薫は溜息を吐きながらパソコンの電源を入れた。
軽い起動音を聞く三秒ほどの間に、先ほどまで持っていた憂鬱が少しずつ和らぐ。
「そうよ、私にはネットがあるもの」
気持ちを切り替えるようにカーソルを運ぶ。
ショートカットから入るいつものゲーム。
「いやだ、満室?」
ゲームトップに表示される現在入室中の数を見て、また溜息を吐いた。
「しょうがないわ」
呟きながら、誰かが OUT するまでの時間潰しにとコンテンツ内のチャットを開いた。
とても簡単なゲームだ。インして、自分のヒットポイントと決められた持ち時間の許す限りで、他のユーザーに《闘う》コマンドを選択する。
勝敗はランダムで、時に相手のアイテムを奪ったり、自分のアイテムが壊れたりもする。
個人の管理人が運営しているゲームなので、サーバー負荷対応で同時にインできる人数は五人まで、それを承知で六人目として入ると管理側からステイタス没収などの処罰を受ける。一人のゲーム時間は十分以内に設定されているので、それを待つ間のチャットが五種類用意されている中の、誰もいない《賢者の間》に薫は迷わず入った。
自分のハンドルネーム《ルル》が現在入室蘭に表示されると、待っていたかのようにもう1人が現れた。
γ>こんにちわ、ルルちゃん
ルル>γさんこんにちわ
γ>学校もう終わったの?
ルル>うん
γ>今日は早かったね
ルル>午後の授業さぼっちゃった(笑)
γ>ダメじゃん( ̄w ̄)
薫が二か月前、このゲームに参加した時γはすでに古参ユーザーだった。
自らを二十台の会社員だと自己紹介した彼は、初心者で右も左もわからない薫にとても親切にゲームの事を教えた。
今では、他のユーザーが居ればゲームの内容で盛り上がるが、二人きりで居ると殆どゲームの話などしない。
軽い世間話から始まって、ちょっとした打ち明け話。そんな毎日を積み重ねて二か月も経つ頃には、薫は毎日教室で会う友達にすら言えない相談などするようになっていた。
ルル>だってお昼にボンゴレスパ食べたら、急に思い出しちゃって
γ>何? あの彼?
ルル>うん。一緒にあの店で食べたなぁって
γ>もう忘れたって言ってなかったっけ(≧m≦)ププ!
ルル>だって~
γ>だから、言ってるじゃん。失恋の特効薬は新しい恋だよって
ルル>えーだってぇ
γ>オフで俺と付き合ってみなよ? 軽いノリで言ってるんじゃないぜ
ルル>だって顔も知らないのに
少しずつ増えてくる、危ない橋を渡るような会話。
γ>顔は知らなくても、ルルの話を聞いてればどういう人なのかなってのは解るよ
ルル>えぇー
γ>ルルが今まで付き合ったヤツは、俺に出会うための寄り道だったんだってば
γ>実際、ルルがこのゲームに参加したきっかけだって、その彼の事が原因じゃないか
γにそう言われれば薫は否定できない。
高校生の頃友達だった彼と、卒業して久しぶりに会ったらすっかり幼さが抜けて社会人になってしまった姿に、恋をした。
アルバイトの相談やちょっとした昔話の為に何度か会って、やっと告白をしたら瞬殺でその恋は終わった。
その悲しみを拭う為に、慣れないインターネットで恋愛関係の掲示板を渡り歩くすがらで、このゲームに出会った。
今まで彼を想う為に費やしていた時間を紛らわせるだろうかと期待して登録して、γと出会ったのだ。
聞き上手なγのチャットにつらつらと失恋の告白などするうち、γの気持ちも親切なゲーマーから《ルル》を一人の女性として意識するようになったのか、チャットで二人きりになれば薫の気持ちをくすぐるような発言をするようになっていた。
けれど……
ルル>γさん今日はどうしたの(^_^;) ちよっと強引ww
γ>そうかな? 実はね……
ルル>なぁに?
γ>今週末名古屋に出張なんだ。良かったら……
お互いのプライベートが会話に出始めた頃、自然な成り行きでγは京都に、ルルは名古屋に住んでいる事を知り合った。
気楽に会うには難しい。けれど、新幹線で一時間かからない距離は、もやもやと沸いてくる気持ちを実現可能にさせる。その距離感は、決して伝わらないはずの温度がつらつらと打ちこまれる文字に期待をこめて籠められる。
薫が、本来ならあり得ない温度をディスプレイから感じて頬を染めるのには、充分だった。
そしてγが囁いたきっかけは薫の震える背中を押した。
――会いたい……
そして、あなたの本当の体温に、触れたい……
指先でγの並べる文字を振れ追いながら、薫は小さく頷いた。
「それで、どうだったの?」
学食の隅で赤い目をこする薫に、幼稚園の頃からの幼馴染、雪が尋ねる。薫はそれに鼻をスンと鳴らして答えた。
「ナナちゃん人形の下でγさんの背中を見つけた時はずっごくときめいたわ。
後姿だったけど、教えてもらった通りの水色のストライプのシャツ、ポールスミスの緑ラインのバッグ。一人しか居なかったからすぐに解ったわ」
薫がうっとりと思い出しながら語るのを、
「平日の十時にナナちゃんで待ち合わせするヤツも居ないもんねぇ」
雪はさらりと流し聞く。けれど薫はそんな事は気にせずに続ける。
「後ろから、声をかけたの。『γさん?』って。そしたら『はい』って答えて微笑みながら振り向いてくれたのよ」
「ふぅんそれで?」
雪はチャーハンを口に運ぶ片手間に合の手を入れる。
「そしたら、γさん……」
突然に薫の言葉が震えはじめた。
「私を見た途端に、さぁーっと笑顔が引いたわ。
私『γさんですよね? ルルです』って勇気出して聞いたわ。そしたら、『人違いですよ』って言って、さささーっと走って去ってしまったの!」
最後は本当に涙交じりの鼻声になった薫の言葉を
「ふぅん、そう」
さっくりと聞き流しながら雪はチャーハンを食べ終えた。そして
「それよりさぁ、薫、もう午後の講義始まるからそろそろ行こっか」
「え? もうそんな時間? 酷いわ。
私がこんなに傷心していても時間は無情に過ぎてゆくのね」
「大丈夫よ。薫は可愛いから、二日も泣いたらまた次の恋に出会えるわよ」
セルフサービスのトレイを持って立ち上がる雪に
「ありがとう」と言いながら薫は
「でも講義の前に化粧直しに行かなきゃ。
次は新谷教授の講義だもの。こんなに泣き腫らして崩れた顔で出るわけにはいかないわ」
「はいはい。これは私が持って行ってあげるから、遅刻しないように来なさいね」
薫のトレイも持って、雪は笑った。
「ありがとう」
嬉しそうに席を立って背中を見せ走り去る薫に雪は、口端をゆがめた笑みを浮かべて見送る。
子供の頃からの付き合いだ。雪は、
「あんたを理解するには普通の男じゃダメよ」
薫が間違うことなく、男子トイレに入って行ったのを確認して、
「あ、トイレはちゃんと男子用に入るんだ」
と妙な感心をしながら食器トレイ返却口に向けて踵を返した。
~了~
注) ネットで知り合った人と簡単に会うとかしちゃダメだよ?ww
薫くんのモデルというか…
タイガー&バニーのファイアー・エンブレム(ネイサン)の日本人版を想像していただけると近いです^^
騙されてくれてありがとう(´▽`)そしてありがとう♡
続きは無くてこれで終わりの予定なので、よろしかったら一緒に薫くんの幸せな今後を祈ってください^^
知り合いの薫さんはみんな女性ばかりだったので、まんまと騙されました^^
マツコや徳光みたいなドラァグ-クイーンなんですね。続きも面白そう♬
うふふ~ドキドキしてくれてありがとう(´▽`)
先の展開もないこんなオチでスミマセンww
では手に手をとって温泉など♡
いやスミマセンこんなオチでww
でも薫ちゃんは真剣だったのですよ~
γさんが受け入れてくれればハッピーエンドだったのに(笑)
ときめいてくれてありがとう(´▽`)
構成ですね。危ない橋の会話にドキドキさせられ、先の展開がすごく気になりました。
オチが、、僕みたいじゃーww
ネットは性別詐称がアリですもんねww
さ、僕とリアルデートしましょうか♥
姿かたちは見えなくて・・・
それが頭のなかでどんどん自分の理想を作り上げ、
「会いたい」けど「会うのがこわい」の繰り返し・・・^。^
近くて遠い、二人の距離・・・
↑
ってなことコメしようとしたら、なんと!なんと!
出ました!ちょみさん得意(?)のBLオチ!@。@;
(私のときめきを返せ~~!!wwww)^。^;
注釈、良い子はマネしちゃダメだよ? にしようか、
どーしようか悩んだですww
ネットも色々あるけど、ニュース見てるとリアルの方が時々怖いですにゃ(^_^;)
読んでくださってありがとうございました♡
ラストの注釈でつい笑っちゃいましたです・・・^^
ネットの世界はいろいろあるものね~^^;
ニコタにもこういうことって、ありそうですよね~
でも上手く行ってるカップルもあるらしいので、
冒険のつもりで飛び込んでみるのもいいのかもww
うっかり同性でも幸せになれるかも~(マテ)
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
できれば寄り道なんてしないで直行で運命の人に巡り合えればいいんでしょうけどww
薫ちゃんはたくさん辛い寄り道を繰り返して、
きっとステキな恋に巡り合えます(´▽`)
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
物語や登場人物を
ニコタの世界に置き換えて(妄想しつつ^w^)
楽しく読ませていただきました~w
リアルで
アバターの性別と同じかどうか
向こう側はわからないですものね~^p^pp
ほんと、ネット内で気軽に会っちゃいけないですよね!
いつか薫ちゃんにステキなお相手が見つかりますように♪
「恋の寄り道」かぁ、なるほどね^^
面白かったです♪
説明しよう!(← ヤッターマンのナレーター風に)
薫君が男の子に恋するルルちゃんで、
雪は薫(ルル)ちゃんの嗜好を唯一理解してくれる子供の頃からの幼馴染なんですね~
薫(ルル)ちゃんはぱっと見アメフトでもやってそうなガタイで女の子にモテそうなんだけど、
この嗜好のために失恋ばっかり繰り返すんですよ^^
雪はそんな薫ちゃんがとても可愛くて大好き(面白がってる)なんです^^
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
最初からそういう相手を選べば幸せなんだろうけど、
薫くんは心が女の子だからどうしても
普通の優しくてかっこいい男の子に目が行っちゃうんですねぇ
あと何回か失恋を繰り返して幸せになって欲しいと思いますw
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
そこに来ちゃうんですよww
ちょっとごっつい系のお兄ちゃんが女の子言葉使って
幼馴染の女友達とカフェで失恋話してて、励まされるっていう感じを目指したのですよ(´▽`)
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
そこがほら、普通の男の子に魅力を感じてしまう
心が娘さんのサガでしょうかww
いつの日か薫くんにもいいご縁がめぐってきますようにv
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
えぇ? 写真集が気になる男の子には便利なの?
そういうものなの? うーんよく解んないです~><
え? カマされた?(´▽`*)
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
ネットはなぁ・・・
ひろゆきが言ってたけど、ほんまにウソが見抜ける人しかしちゃあいけんのかもしれない。
でも、ニコタで出会って結婚した友人夫婦も知っとるけえの(赤ちゃんなでまわしてきたった❤)
ここは、立派な出会いの場でもあるのよねえ(✿ฺ-ω-)ゥンゥン♫
ルルちゃん可愛いのに、なんで去られちゃったんじゃろう・・・(ノ┏Д┓`)ホロリ
確かに、普通の方を相手にしちゃ~ダメよね~!
うふふっ。。入り込んじゃった^^;
面白かったです。
ありがとうございました~♪
なるほど、そこに到着するおちでしたか、おもろかったです^^
おやすみなさい。
相手を選んでアタックしないと成功しそうにないです。
まあ、こう言うコミュニケーション方式ですからね。
まあ、でも写真誌が気になる僕らみたいな業界の人間には便利なんだよね・・・
とか、一応カマしてみる(笑)
構成がよくて面白かったです。
薫ちゃんは寄り道だらけの人生なのでよろしいとして、
γさんに関しては二ヵ月間とんでもない寄り道でしたねぇww
お褒めいただき、嬉しく思います^^
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
そうそう、「タイに行ってお×ん×ん取るのよ!」てお金貯めてた友達が昔居ましたが、
今頃何をやっているのかなぁ…と急に思い出しました^^;
やっぱりまずは多人数でオフして様子見るのが無難ですよねww
読んでくださってありがとうございました(´▽`)
女装子さんでしたか 実際いますよね
タイでは日本の1/3の費用で転換手術でき、けっこう技術が高いのだとか
未手術のレディーボーイなる人たちもいて、一部日本人観光客が
一服盛られ、身ぐるみはがされるという噂も…
(脱線でした すみません)