忘れられない、あの夏(後編)
- カテゴリ:日記
- 2012/09/10 07:46:18
アンパイアの手があがって試合再開、タカハシはボールをセット。
素早く振り向いた。
ぼくも二塁ベースへ走る。
二塁へ牽制球。
遊撃手が捕ってランナーにタッチ。
セーフ。
二塁塁審の腕が水平に広げられたのを見て、ぼくは守備位置に戻る。
それにしても暑いな。
走ったのはわずか10メートルくらいだけど、胸に入ってくる空気に温度が感じられる。
タカハシ、ランナーは気にするな、三振狙いだ。
いや、いい、タカハシ好きなようにやれ。
たとえ送球がそれても、僕が拾って三塁で刺してみせる。
いいぞ、二塁牽制のたびに全力で前に走ってやる。
ノドは熱くなるけど、空気でヤケドなんかするものか。
遊撃手からの返球を受けて、タカハシは再び捕手のサインをのぞきこむ。
この距離なら遊撃手の連携サインでなくて直接見える。
外角にストレート。
なるほど、9番打者は速い球についてこれてない。
見送りか空振り狙いだな。
でも、振り遅れが偶然当たるかもしれないので、少し右寄りにポジションを変えておくか。
振り遅れが当たってセンター返しは考えづらいから、5メートルくらい右寄り、よし、この位置だ。
タカハシがセットポジションに入る。
顔だけこちらに向けて、二塁ランナーを見る。
いいよ、タカハシ、ランナーは見なくて。
バッターにズバっといけ。
バッターの方へ顔を向け直すと同時に左足を上げ、投げた。
バッターは振った。
球が上がったのが見えた、金属バットの乾いた音とともに。
こっちだ。
しかも予想より、さらに右寄り。
「バァァック」
内野手が叫んだ。
僕の球だ。
走る。
デカいぞ、これは。
追える、追いつくんだ。
僕には見えている、白い球が。
捕ってみせる。
「センタァー」
今度は右翼手の声だ。
見える、見えている。
ちくしょう、伸びてるぞ。
さらに奥か?
まだ走る。
届く?届くのか?
白い球が落ちてくる。
届け、追いつけ。
グラブを差し出す。
足は止めない。
最後の一歩は、落ちてきた球に向かって飛んだ。
僕のグラブの先、数センチ向こうを、球がかすめていった。
地面との衝撃を胸で受け、つむっていた目を開けたとき、青いフェンスに白い球が転がりながらぶつかるのが見えた。
応援席の津波のような大歓声が、僕の背中に押し寄せ、通り過ぎた。
その直後から、僕はちゃんと覚えていない。
草の匂いと、腕にチクチクと当たる感触は、あのときのものだったろうか?
右翼手のヨシノがゆっくりと駆けてきて、惜しかったな、と言ったこと。
僕の腕を引っ張って起き上がらせたこと。
ホームベースまで走らなくちゃいけないのに、つまづきそうになったこと。
それらは、スタンドで見ていたオオノが、あとになって教えてくれた。
けれども、白い球がグラブの数センチ先を通過する映像は、僕にとって忘れられない記憶になった。
届かなかった、あと、ほんの少し。
あとほんの少しだったのに、届かなかった。






























忘れられない夏かあ♪
うんwみんなで花火してはしゃいでた夏かなあw
元気そうで嬉しいです