Nicotto Town



忘れられない、あの夏(後編)

アンパイアの手があがって試合再開、タカハシはボールをセット。
素早く振り向いた。
ぼくも二塁ベースへ走る。
二塁へ牽制球。
遊撃手が捕ってランナーにタッチ。
セーフ。
二塁塁審の腕が水平に広げられたのを見て、ぼくは守備位置に戻る。

それにしても暑いな。
走ったのはわずか10メートルくらいだけど、胸に入ってくる空気に温度が感じられる。
タカハシ、ランナーは気にするな、三振狙いだ。
いや、いい、タカハシ好きなようにやれ。
たとえ送球がそれても、僕が拾って三塁で刺してみせる。
いいぞ、二塁牽制のたびに全力で前に走ってやる。
ノドは熱くなるけど、空気でヤケドなんかするものか。

遊撃手からの返球を受けて、タカハシは再び捕手のサインをのぞきこむ。

この距離なら遊撃手の連携サインでなくて直接見える。

外角にストレート。

なるほど、9番打者は速い球についてこれてない。
見送りか空振り狙いだな。
でも、振り遅れが偶然当たるかもしれないので、少し右寄りにポジションを変えておくか。
振り遅れが当たってセンター返しは考えづらいから、5メートルくらい右寄り、よし、この位置だ。

タカハシがセットポジションに入る。
顔だけこちらに向けて、二塁ランナーを見る。

いいよ、タカハシ、ランナーは見なくて。
バッターにズバっといけ。

バッターの方へ顔を向け直すと同時に左足を上げ、投げた。
バッターは振った。
球が上がったのが見えた、金属バットの乾いた音とともに。

こっちだ。
しかも予想より、さらに右寄り。
「バァァック」
内野手が叫んだ。
僕の球だ。

走る。
デカいぞ、これは。
追える、追いつくんだ。
僕には見えている、白い球が。

捕ってみせる。
「センタァー」
今度は右翼手の声だ。

見える、見えている。

ちくしょう、伸びてるぞ。
さらに奥か?

まだ走る。
届く?届くのか?
白い球が落ちてくる。

届け、追いつけ。
グラブを差し出す。
足は止めない。

最後の一歩は、落ちてきた球に向かって飛んだ。
僕のグラブの先、数センチ向こうを、球がかすめていった。
地面との衝撃を胸で受け、つむっていた目を開けたとき、青いフェンスに白い球が転がりながらぶつかるのが見えた。
応援席の津波のような大歓声が、僕の背中に押し寄せ、通り過ぎた。

その直後から、僕はちゃんと覚えていない。
草の匂いと、腕にチクチクと当たる感触は、あのときのものだったろうか?

右翼手のヨシノがゆっくりと駆けてきて、惜しかったな、と言ったこと。
僕の腕を引っ張って起き上がらせたこと。
ホームベースまで走らなくちゃいけないのに、つまづきそうになったこと。
それらは、スタンドで見ていたオオノが、あとになって教えてくれた。

けれども、白い球がグラブの数センチ先を通過する映像は、僕にとって忘れられない記憶になった。

届かなかった、あと、ほんの少し。

あとほんの少しだったのに、届かなかった。

#日記広場:日記

アバター
2012/09/18 16:02
そんな素敵な夏いいですね(*^^)v

忘れられない夏かあ♪

うんwみんなで花火してはしゃいでた夏かなあw

元気そうで嬉しいです



Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.