「捨て子ですか、困ったなあ。」

初心者広場の派出所。
マロンと名乗った警官は、アタマをかきながらため息をついた。

「私の仕事は、マナー違反を取り締まることなので、
捨て子って、扱ったこと、ないんですよねえ。」

無理もない。いくら住人が20万人いようと、このタウンでは、
道に迷うことはあっても、捨て子なんているはずがないのだ。
警官としては、道に迷ったら即、住所を調べて案内すればいいだけだし、
そもそも住所を持たない住人なんて、いるハズがない。

「捨て子じゃなくて、えっと～！」

花婿くまぬい、虎吉のことを、カエルのルッカも、ガンちゃんも、
どう説明したものやら、よくわからない。

「タウンに出れば、コトは解決するから！行ってらっしゃーい♪」

ニッコリ笑った魔術師あんぱん５は、次の仕事があるといって、
弟子のながれぼしと一緒に、さっさと帰っていった。

「りんりとらんらも、疲れているようなので、おいとましますわ♪」

白魔法使いまりんの部屋を出てから、蘭ランらん嬢も、
2匹のくまぬいを連れて、さっき別れて行った。

残されたルッカとガンちゃんは、とりあえず、虎吉を連れて
初心者広場の派出所へ出かけてきたというワケなのだ。

「とりあえず、他の広場に行ってみるか。」

二人が、マロンにお礼を言って、立ち去ろうとした、その時だった。

「きゃあああ！誰か、誰か助けてっ！」

女性の悲鳴に、驚いて振り向いた二人の目に映ったのは・・・。

黒と緑のマントを被った二人の男が、一人の女性が頭に被っている
ウェディングベールを掴み、引きはがそうとしているところだった。

「くれよお、くれくれ♪」
「スッテキなアイテム、欲しいのよ～ん♪」

「いやあああ！」女性はあまりの恐怖に引きつった顔を
涙でぐちゃぐちゃにしている。

「ガンちゃん！」
「・・・あれは、最近タウンを荒らし回ってるって、クレクレ野郎だな！」
「どう見ても追いはぎだろ(^^;)。」
「・・・行くぞ！！！」

正義の味方の黒猫ガンちゃんが身構え、ルッカも助太刀しようと
走り出そうとした、そのとき・・・。

「ふざけてんじゃ、ねえええ！」

足下から声がしたかと思うと、ひゅっと風が吹き・・・。

どかっっ！ばきっっ！どしゃんっ！！！

呆気にとられる二人を尻目に、小さなくまぬい、虎吉が、
怒りもあらわに、マント男たちに飛びかかっていったのだ。

腕に噛みつき、足を蹴り上げ、髪を引きずり・・・。

「ぐわあああ！やめて、やめてくれえええ！！」

マントが引き裂かれ、顔はひっかき傷だらけ、鼻水をたらし
ながら、逃げまどうマント男たち・・・。

「あっちは、まかせるか。」

ガンちゃんが苦笑いすると、ルッカも返した。

「俺たちは・・・あっちだな。」

その傍で、こっそりとアイテムを抱えて逃げだそうとしている、
赤マントの女の前に、ルッカとガンちゃんが立ちはだかった。

「ルール違反は、許せない。交番に付き合ってもらおうか。」

青ざめた赤マントの女の背後から、バタバタ、ドタドタと騒々しい
足音が響き・・・。

「こっち！こっちよ！いたわ、アイツら！」

猛然と突っ走ってくる、ウェディングベア・・・。

「待って！待ってよっっっ！」

ゼエゼエ息を切らせながら、ベアを追いかけてくる、天使と女性。

「ひえええ、わかった、わかったよう！」

背中から飛びつかれ、髪を引っ張られながら、赤マントが悲鳴を上げる。

「アタシを怒らせた罪は、重いんだからねっっっ！」

その光景をしばし見つめたのち、ルッカが呟いた。

「あれって・・・どう見ても・・・。」

「うん。虎吉の片割れ・・・ぽいよな。」

まさに、似たもの夫婦（？）である。

「とりあえず、落ち着かせるか。」

ガンちゃんがひとことつぶやき、ぴょんと、空中へ飛び上がった。

「にゃあおうううううっっ！」

甲高い叫び声が初心者広場に響き渡り・・・。

興奮して暴れまくっていた、2匹のくまぬいも、さすがに
空を振り仰ぎ、行動を止めたのだった。

「アンジェ！？」

「と、虎吉さんっ！」

我に返った2匹のくまぬいは、お互いの存在に気付いて、
しばし沈黙。

「良かったね、見つかったの！」

美少女ヌマっちが、菊丸天使に微笑みかけた、そのときだった。

「まだ・・・遭うわけには行かないんだっっっ！」

虎吉は一言叫ぶと、猛然と走り去ってしまったのだった。