現代ヲタクの基礎知識
- カテゴリ:小説/詩
- 2012/08/02 23:48:16
しばらく前に買ってきて積んでいたニール・ゲイマンの短編集『壊れやすいもの』を隙間時間に読んでいる。
ずっと気になっていたし、「スーザンの問題」が読んでみたかった(「どうしてスーザンを……」ってのはナルニア読者の多数がもつ疑問・不満だだろう)、というのもあって購入してしまった。
最初に載ってる「翠色の習作」がえらく面白かった。
読みすすめつつ、バラ撒かれたちょっとした事象を「おっ」と拾い集めて、で、状況(というか話のキモ)が腑に落ちると、一気に話が見えてニヤリとしてしまう。
ただこの作品、楽しむには前提条件がある。作中の語句に反応する読者であること、だ。
作品冒頭に掲げられた劇場の宣伝文句に『旧支配者来たる』という演目がある。
語り手の同居人を、ロンドン警視庁のレストレード警部が訪ねてくる。
……そういうことだ。
前提となる過去の作品を知っていること(まあ有名作品ではあるが。特に後者)が必要だ。あきらかに読者をひっかけにきている記述もあるのだが、その事象を知らなければ勘違いのしようもない。
要はパスティーシュで、わたしは(たまたま)楽しめたが、前提知識がなければ何がなんだかだろう。
この話は面白かったのだけど、わたしは本当のところ「身内の言葉」なしに成立しない話はあまり好きではない(まあこの話は正面切ったパロディ・パスティーシュなわけで、言ってもしゃーないのだが)。
内部だけに通用する常識・言葉がわからないと成立しないのは、外部にいる者からすれば疎外されてポカン、なのだから。
なのだけど、じゃあ常識の線ってのはどこなのだろう、と考え込んでしまった。
知識の幅なんて人それぞれに違う。仕事や趣味、興味の方向でずれていて当たり前だ。なら、どこを基準にすれば「常識的」なのだろう?
周囲を見まわして思ったのだけど、ヲタクと呼ばれる人間は、世間では意味がない・人生に役立たない知識だけは、やたら持ってるのじゃなかろうか?
そのテのヲタっ気のある人たちは、趣味の何かを追いかけているとき、行きがけの駄賃のように、知識を得るというより知らず吸収していることが多いように思う。
勿論、たいてい役に立たない。
でもって一般で知ってて当然なことを知らなかったりする。
……いや、ズレてるの実感する瞬間があるのだ。
こちとら、ファッション(現代のは。服飾史系はちょっと好き)とかスポーツ関連の知識が欠落していておそらく幼児なみだろう。オリンピック期間中は肩身が狭い。
一方でどうでもいいことは「よく知ってるね〜」と言われる。ヲタっ気のある人は割と皆そうじゃないだろうか。
閉園する熊牧場で、熊を飼いきれないから一カ所に閉じ込め餌を減らして頭数を減らす(共食いを期待する気らしい)計画について、
「んな恐ろしい。それなんて蠱毒?」
と言ったら、ヲタクっ気のない人には通じず、ソノ気がある人は怨念でまじものができるほどの残酷さなんだから止めるべし、と顔をしかめていた(ってことは知っていた)。
フィクションで、たとえばウラシマ効果とかシュレディンガーの猫とかについて見たことがあるなら(そういえば大笑いな「シュレディンガーのぱんつ」なんて動画を見たことがあるぞw)理解している・本当の意味でわかっているかは別にして、相対論や量子論について「そういうことらしい」という知識はあるだろうし。
ヲタクって、人気があるフィクションに登場する文学・歴史・伝承や、世のニュースで扱われる程度の理系ネタなんぞは聞きとめて憶えていて、存外イロイロな知識を持っている気がする。
ただ、大概はだからどうした、って類の無駄知識だが。
でもって、現実生活で役に立つこと、評価されるようなこととは縁がないのはなんだかな〜、と思うのだけど。
逆にヲタクになら知られてるだろう、と思ってたのに知られてなくて、悲し〜くなる時もあるが。
アニメ・FATE/Zeroのランサーが「誰? 知らん」とあっちこっちで言われてて、
「いや、そこまでマイナーじゃないだろ。ディルムッドとグラーニャ、ディアドラとノイシュの二組は、似たような不幸さで記憶に残るやろ〜」
と言いまくっていた。
でも——同作品前期のED見てもバーサーカーの正体をわからない人が結構いたらしい(アーサー王と由縁があって、湖にたたずむ騎士の後ろ姿が出てくりゃ、もう名乗ってるのと同じだろうに)ことを考えると、それより知名度がない話は知られていなくて無理ないのだろう。
ケルト系の話はそんなにマイナーかよ、とぶうたれたくなるw。
まぁ時には、そんな風にすこし淋しくなることもあるが、益体もない知識のせいで、思わぬところで意外な発見があったり、笑えたりということだってある。
日常的には全然、まったく、何の役にも立たない知識でも、知ってりゃモノガタリが面白くなることくらいはあるのだ。
無駄でも、役立たずでも、無意味でもいいや、あれこれ興味を持つこと、知ることは、つまり楽しい。
いやね、もっと勉強ておけば(というか、身についていてくれれば)良かったのにとしみじみ思う。
はい、ものすごぉ〜く偏ってます。
自分の知識は、世間的な意味での常識からはずれてるだろうな〜、と不安になってみたり。
akaneさん
子引き孫引きあたりから知ったことは、以前なら元ネタに当たってみたりしていたのに、最近は憶えているかもアヤシイありさまでw
好奇心をなくしてちゃいかんな〜、と思うところしきりです。
知らない人には気付かせず、知ってる人はニヤリとできる、というバランスが理想ですが、なかなかそうはいかないもので・・・。
それでも、気付いてニヤリとできたときは、ちょっと嬉しくなる気がします。
ただ、私も自分がオタク気質であることは自覚済みですが、そのハンパな知識のほとんどが原典を知らずに引用で覚えたものばかりなので、取り扱いには気を付けなければ、と思います(汗)。