「想いのひとかけら」
- カテゴリ:30代以上
- 2012/07/15 08:33:49
「ここでいいはずなんだけどな~」
夏が始まる前の海。
もうじき日も暮れようとする浜辺に、ナツミは一人立っていました。
あたりには誰もいません。
「だまされたのかな~。でも、あの人、そんな人じゃないと思うし・・・」
ナツミがよく行く小間物屋さん。
そこの店員さんに紹介されたアルバイトです。
「夏が始まる前に、浜辺のお掃除、みたいなものかな」
店員さんは、そう言っていたけど・・・
「あの、ナツミさんですか?」
少しずつ赤く染まっていく空を眺めていたナツミは、その声に振り返りました。
そこには、淡い海色のワンピースを着た、ナツミと同じくらいの歳の少女が立っていました。
(さっきまで、誰もいなかったはずだけど)
そう思いながらも
「はい、そうです」
と答えるナツミ。
「来てくれてありがとう」
そう言って、差し出された手を取ります。
「もうすぐ始まりますから」
ナツミの手を両手で包み込むようにして、少女が微笑んだ時、不意に、風が止まりました。
夕凪。
西の外れに沈みかけた夕日が、穏やかに打ち寄せる波をオレンジ色に染めていきます。
浜辺が夕闇に包まれていくその時、砂浜に小さな光がともり始めました。
ひとつ、ふたつ・・・ななつ、やっつ・・・
いつの間にか浜辺は、数え切れない光の粒に包まれていました。
「あれは・・・何?」
ナツミが訊きます。
「去年の夏の、思い出。そのかけら達です」
「思い出の、かけら?」
「はい。夏の終わりの海辺には、たくさんの思い出達が置き忘れられているんです」
「そのほとんどは、次の夏までに、それぞれの場所に還っていくのですけど」
「中には、還る場所を無くした、忘れられたかけら達もいるんですよ」
「それが、この光達。今日は、彼らを空に帰す日なんです」
そう説明しながら、一つの光を手のひらに乗せ、じっと見つめながら、切なそうに少女が微笑みます。
すると、それが合図だったかのように、光達が、一つ、また一つと宙に浮かび、浜辺をゆっくりと漂い始めます。
青、緑、ピンク、様々な色の光が、もうすっかり暗くなった浜辺を飛び交います。
やがて光達は、二人の周りに集まり始め、ナツミの周りをくるくると回り、一つずつ、名残惜しそうにもう一度自分いた場所を巡りながら、空へ還っていきます。
そのたびに、ナツミには、楽しい気持ち、切ない気持ち、ドキドキするような気持ちが伝わってくるのでした。
「今日は、あなたがいてくれて、本当によかった。ありがとう」
その光景に圧倒されていたナツミの背中から、少女が言いました。
「ねえ、これは・・・」
我に返ったナツミが、振り返ると、そこには、誰もいませんでした。
少女のいた場所では、最後の一人となったかけらが、いま、空に還っていくところでした。
こっちが本当のわたしです。
普段のあれは、偽物なのです。
だまされてはいけません(#^.^#)
恋人たちの思い出、仲良しファミリーの思い出、色々な色がありそうで
それが、天に昇る様子は、綺麗でしょう~ね。
色々と場面を 想像してしまいました^^
とてもメルヘンで可愛くて~とても普段の~ゆちゃまとは、思え…イヤ…w
この2面性が、貴方の魅力ですね^^
このお話は、いまわたしが(ちまちまと)書いている別のお話から派生したものです。
ここにも出てくるお店、不思議な小物を扱うお店が舞台のお話で、ナツミは、そのお話の登場人物でもあります(そこでは、夏摘と言う名前になっていますが)。
その為、少し設定が分かりづらくなってしまったことは否めません。
別の設定にすることも考えたのですが、
「こんな怪しげなバイトに来るやつはいねえだろ~」
と言うことで、最初に思いついたままに書きました。
なお、そちらの方のお話は、短編を組み合わせたお話で、まだまだ書きかけです。
いつか、どこかでお披露目できたらいいな~
と思っています(#^.^#)