Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


【迷い子】

 「庭園」と呼ばれる森の奥深くに、奇妙に規則正しい配列で生えている数本の木立があった。行方不明になった子ども――まだ乳児を脱し切っていない幼子――は、その木立の一つの根元に、うずくまって眠っていた。安らかそうな寝息を立てて。
「こんなとこに…」
 迷子捜索隊に加わっていた少女が木立の向こうから、横たわっている子どもを見つけ、思わず声を上げた。しばし足を止め、子どもの背中が規則正しく上下していることを確認し、緊張を解く。
 まだ走ることも覚束ないような幼児の足で、どうしてこのような森の奥にたどり着くことができたのか、訝しく思わずにはいられなかった少女だが、森のそこここにいる存在の力を借りれば、不可能な事などないのかもしれない。そして少女は、その幼児がそのような存在の力を借りているところを、幾度も目にしていた。
 眠っている幼児に駆け寄ろうとした少女は、その時、その幼児を守ろうとしているかのように寄り添う存在に気がついた。
「…あなたは?…ずいぶんとお力のある方のようにお見受けしますが」
――ほう?われらの存在に気付くか。
 存在は少女に興味を持ったように、形を変えた。緑色の半透明な、人の姿に。
「われら?…私の目には一つの存在にしか見えませんが」
――そなたには単一のようにしか見えなくとも、われらはわれらなのだよ、翼の主。
 翼の主、と呼びかけられた少女は、一瞬何の事か解らなかったが、自分の保護している存在のことに思い至った。
 彼女自身はそれのことは友達だと思っていたので、主、という言い回しに違和感を覚えたのだ。
「私の事を、ご存じなのですか?力ある方々」
――この領域で力を揮うもので、われらに知られぬ者はおらぬ。どんなに小さな力であろうと、どんなに幼い存在であろうと。ゆえに……この者に出会う事が出来た。
 存在は大切そうに幼子を抱え上げると、ゆっくりと少女に近寄ってきた。
――この者…われらの主に近しい魂を持つ者。
「あるじ?」
――われらを彼方より呼び寄せ、この地に繋ぎとめし者。その者が他者を拒んだ故、われらはこの領域を閉じた。
 少女は怪訝そうな表情になった。ではどうして自分はここに入ることができたのだろうか、と思ったので。
 存在は幼子を少女に預け、続けて語った。
――主亡き後、ずっと閉じていたこの領域を継ぐ者が現れた。その者は、己の孤独を厭う故、この領域に人声が満ちることを望んだ。…そして、われらはそのようにした。
 そこで少女は、その存在が言う「領域」とは、このささやかな空き地ではなく、この森全体を指すのだ、という事に気がついた。
「この子が、その主たちに近しい者だ、と?ここを閉じた者と、開いた者に?」
 この領域を閉じるように望んだ者と、開くように望んだ者。全く反対のことを望む二つの魂が、どうして近しい、といえるのだろうか。
――近しい魂を持つ者、だ。魂の在り様が、ではなく、魂の質が、だ。
「よく、解りません。魂の質、とか在り様とか」
――解らずとも構わぬ。われらと会ったことも忘れてしまってよい。そなたはその者の定めに関わっている暇はなかろう?疾く人の世に戻るがよい。
「人の世、って…ここは人の世ではないんですか?」
 小さくともずっしりと重い子どもの手応えは、隔り世のものとは思えない。
 存在は微笑のようなものを浮かべて少女を見つめる。
――ここはわれらの領域。人の世にあって人の世と隔てられし処、時。そなたがここに至ることができたのは…おそらくそなたの属する処が、われらの属する処に近しい故。
「私の…属する処」
――さあ、そなたがここにいる理由は、もうなかろう?この者を保護者の元へ届けるがよい。心配しておろう?
「あ。…では、失礼いたします。ありがとうございました」
 幼子を抱えた少女が踵を返そうとしてふと立ち止まる。
「あ。そうだ。もしかしたら、この子を守っているのは、あなた方でしょうか?もしそうだとしたら、ちょっと過保護だと思います。子どもはけがをしながら大きくなるものです。手助けするのは、命にかかわりそうなときだけで十分です」
 一気にそうまくし立てる。
「もし違うのでしたら、ごめんなさい。申し訳ありませんが、この子が転びそうになるたびに、手を出して支えてやってる方に、今の事をお伝えください」
 存在はあっけにとられた様子で少女の言葉を受け止めた。そして、苦笑に似たものを浮かべて、こう返した。
――心得た。そのように心がけよう。育む者よ。
 少女はひとつ頭を下げてから踵を返し、足早にその場を去って行く。
 立ち去る少女を見送る存在が、ぽつりつぶやく。
――われらはただ、在り続けるだけだ。…主の命が下るときまで。滅せよ、と。

#日記広場:自作小説

アバター
2009/06/28 13:45
幼子はアレク?
でも、もう少しすると分かるのかな。
アバター
2009/06/27 23:17
新作、というより、「プレ・ストーリー」です。

ちょっと前にUPした【竦む翼】の登場人物が「少女」です。
アバター
2009/06/27 21:08
ちょww 新作小説かいな('▽';)すげっ



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