Nicotto Town


うみきょんの どこにもあってここにいない


北斎展、つづき。游亀と亀吉くん


というわけで、北斎展、つづき。
《游亀》(一八三四年頃、長大判絵)。
藻の漂う水中を亀が三匹泳いでいる。
水面は四本の線が藍の濃淡で描き分けられ、
波紋として、亀をヴェールのように覆う。
波紋により縞になったところを亀がおよぐ。
縞によって同じ亀でも、甲羅の色が濃くなったり、薄くなったり。
三匹のうちの一匹は蓑亀といって、
甲羅から生えた藻が尾のように長く伸びている。
これは長寿のシンボルなのだそうだ。
その尾のような藻が、波紋によって分断されてみえる。
水にたなびきながら、その藻が三つにずれてみえるのが、
波紋そのものをデザイン化したようで、心になびいた。
蓑亀と中央の二匹は甲羅の側から描いてある、
つまり水面を下にみているのだが、
上の一匹は裏側から描かれている。
上に向かって泳ぐ亀の姿を、水中からみあげた感じだ。
みあげることとみおろすこと、
このふたつが違和感なく同時にえがかれてあること、
それは水にうつったなにかと水をおよぐなにかが
同時にあることのようにも思われた。
蓑亀の尾のような藻と、水中にある藻たちが、
どちらかが夢でどちらかが目覚めであるような、
かつ同時にあること、そんな瞬間の凝縮、としての水に、
心が波打ったのだった。

ところで家の近所で亀を飼っている家がある。
玄関先に衣裳ケースに水をいれたものに、
大きな亀が二匹。通るたびに覗いている。
雨がふると蓋がしまって、天気のときは蓋があいている。
こっそり亀吉くんと呼んでいる。《游亀》をみていて、
近所の亀吉くんたちを思い出した。というか、
これからは、亀吉くんたちをみるたびに、
《游亀》=北斎が、わたしのなかで思い出されるだろうと思って、
そのこともうれしくなった。なにかが積み重なってゆく。
おそらく大切な、ものたちだ。




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