Nicotto Town ニコッとタウン

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ほりおこし小説

過去にサークルで上げた
少々物理的に痛いいちゃいちゃ練習モノです。


「…ほら。昨日も食べなかったんだから。」

そう言うと彼は袖をまくり、見えた白い手首を私の口元に宛てがった。



パレイドヘイト


そんなことされたら、かなわない。
無意識のうちに手首に噛み付く。そして溢れ出る血に舌を這わせ口に含み、蒸下する。
理性が多少戻った頃に彼に目をやると、彼の顔は苦痛に歪みながらも口端が弧に曲がっていた。それは笑顔を一生懸命に作っているように見えた。




昔からこの街はそうだった。
仲間はずれを作り、団体行動を成していた。

私はその仲間はずれに運悪く選ばれてしまったようだった。
何故か、私は人の血や肉を糧にしなければ生きて行けない体で生まれてきたのだ。
母も父も、普通の人間だった。この体は突然変異のようなものらしい。

しかしこの街では代々そんな体で生まれてくる人間を崇めてきた。
貧乏な売り子の子、良家の跡取り、今まで沢山の人がこの体を持って生まれてきた。

“血肉を糧にする身体を持つ者の生まれし時、希望は開かれ、望みは叶うだろう”
遠い昔の勝手な預言者が立てたそんな言い分を、街人は簡単に受け入れていたのだ。
確かに代々その身体を持つ人間が生存している間は、伝染病や不作、干ばつなどは起こらなかったという。

しかし私の代では、そんなことは無かった。通常のように飢え、通常のように日照りが続き、雨が止まない日もあった。

そんなところ、別の預言者がこう言った。
『呪われた代の忌々しき血肉を貪るだけの『導の子』は悪魔の生まれ変わり』だと。
街人はそれを信じて、私を幽閉することを決定した。

それから私は街から遠く離れた塔の中に、彼とともに閉じ込められたのだ。

…彼は私とは別の、仲間はずれだった。





…ここに幽閉されて何年経っただろう、と考える。
もう2年は経ったな、と窓の外に淡く光る雪を見て思った。

俺はこんな幸せな所に閉じ込められていていいのだろうか。



俺は呪われた血筋の人間らしい。
殴られても、蹴られても刺されても、すぐ傷が塞がって元通りになる。
住民には気持ち悪がられ、いつも殴られて、蹴られて、刺された。

すぐ治るだけで、痛みは変わらず持っているのに。

俺には、何故俺がこんな目に合うのかなんて理由は教えてもらえなかった。
正直この力の何が悪いのかがわからない。
何をどうしてもこの体は変わることがなかった。
死のう、と何度も思った。だけれど毒薬は高いし、自分で自分を刺してぐちゃぐちゃにしてもすぐ傷が治るだけだった。

どうしようもなかった。

しかしある日、突然街外れの塔の中に連行された。
『導の子』と俺が幽閉されることが決定した時だった。

最初は怖くて、怖くて。一生体の肉を貪られ続ける、なんて。




…しかし。彼女は違ったのだ。



「…ごめん…ごめんね、痛いでしょ、我慢できなくてごめんね。」

泣きながら彼女は言った。その涙に歪んだ顔がどうしても愛しくて、額にキスを落とした。

彼女は俺を人として扱ってくれる、唯一の人だった。
痛みがあることをわかってくれた。

彼女はいつも「食事」を我慢して我慢してやせ細ってしまっていた。
俺のために、いつも。そう思うと体を心配する反面、嬉しく思う。

外の雪は変わらず。

彼女の口についた俺の血を手で拭った。
そして彼女の背中に腕を回して抱きしめると、彼女も遠慮がちに手を伸ばした。

近くにあったローチェストの上にあるカッターを手にとって、首の付け根を薄く切った。
軽くつまんで血を滲ませると、彼女はそこに手を伸ばして血を指で掬った。



きっと。

きっと彼女は俺が死んでしまったら、糧が無くて生きていけないだろう。
俺も彼女が居なかったら生きていけないようだ。
彼女に必要とされる事が痛みより、生きることよりも大切になってしまったから。



雪も世界も、何一つ変わってはいない。変わることはない。
だけれど生きる意味を見つけた世界は、少しだけ明るい気がした。




人はどこまでも欲深くなるらしい。


パレイドヘイト 続



必要とされるだけで十分だった筈だった。
『ごめんね』と謝って貰えるだけで心は満たされた筈だった。

だけれど。


「…おなか、すいた。たべさ…せて…?」

呂律が回らないような状態の彼女が、かすれた声で言う。
彼女はいつも限界まで食べる事を我慢する。
いつもはその限界を見計らって手や足を差し出すようにしていた。

だけれど今回は求めてくれるまで差し出さないようにして、
…ただの欲望だ。自己を顕示したいだけ。
『感謝してもらう』存在から『感謝される』存在になりたかっただけで。

…結果は上出来だった。
きっと今の俺の顔は醜い感情をそのまま写すように笑っているのだろう。
貴方の生も死も俺の匙加減なんですよ。と彼女の耳許で出来るだけ軟かく囁いた。


何時振りに腕に噛み付かれただろう。5、6日位しか経っていない筈なのにそう思った。

もう、自分の目的は終了した。人から求められたかった衝動からの行動だった。
だけれどその衝動ははそれだけに収まらず。
食事に交換条件を提示した。勿論その条件は彼女によって飲まれた。




彼は何がしたいのだろう。私の首に傷を付けたって、何にもならないのに。
楽しそうにナイフで私を薄く切る彼を見て、心底そう思った。

滲む血を指に拭ってさも美味しいものかのように口に運ぶ。
私にはそれは甘美な物でも、彼にとっては只鉄臭く赤い液体だというのに。
別に私は傷つけられたってどうでもいい。だけれど。

もし彼が自分の体を蝕まれることに嫌悪を抱いて、私に供するのを止めたのなら。
交換条件に食べた分の体を返せ、なんて言わないだろう。
そう考えている間にも切られた痛みが痺れの様に駆け巡った。

そうだ、深く考えるのは止めよう。

彼はさっきの私が彼にした食事を、そっくり真似るような形で私を切り刻んで蝕んだ。
彼の手は酷く優しく、痛めつけられてるにも関わらず何故か嫌悪感は感じなかった。
しかし彼に肉は流石に頂けないらしく、血を更に啜って食事する手を止めた。

はもう味覚まで狂ってしまったようで。口内の赤いものを甘いと捉えてしまう。
気が違ってしまったのかと、そう思った。

…衝動は止まらない。
これが無駄なことだと分かっている。
彼女は俺の様に傷が直ぐ治るわけじゃないことも、十も承知している。
傷めつけたい訳じゃない。只。

俺がここにいて、貴方がここにいる。
俺がこの空間を幸せと思った証を残したかったのだ。
そして彼女を壊して、偽りでも良かった、愛を囁かせようとしたんだ。

酷い人だと、今更ながら。

閉鎖世界。
只、貴方が居るだけの狭い箱庭にて。

#日記広場:小説/詩

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2012/06/22 23:25
黒ぽんさんに同意!
美味しいわぁ^^
アバター
2012/06/06 22:28
物理的にいたくても精神的に美味しいですよ!
ニヨニヨが止まらない件



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