呪縛の家 その18
- カテゴリ:自作小説
- 2012/06/04 15:15:17
雷が近くに落ちた。窓が揺れる。
そして激しい雨が窓を激しく打ち付け、昼間だというのに「家」を闇が覆った。
「今日は抜け駆けしたらダメだぞ」
そう釘を刺したものの、
「はぁい」
答える舞子の笑顔が不自然だった。嫌な予感がする。今舞子を独りにしておけない。家を出たふりをして近くの喫茶店で外を眺めていると、野球帽とパーカーで顔を隠した舞子が店の横を通り過ぎた。
「ビンゴかよ」
顔をしかめながら、浩介は喫茶店を出ると舞子をそっと後をつけた。加奈子の入院先に寄ったのは予想外だったけれど、あとはまっすぐ「家」に向かった。「家」と決着をつけない限り舞子は前に進めないことを浩介も感じ取っていた。でも舞子はたった一人で立ち向かえるのだろうか?いっしょに来ようと思っていた。今日説得しようと思っていたのだ。しかし、舞子は自分との約束を破って「家」に向ってる。今、彼女をとめれば、舞子と言い争いになるだろう。「家」がその亀裂を見逃すはずがない。
舞子の意思を尊重するしかないよなぁ。舞子が、一人で行くことを選んだのだから。浩介は「家」近くの壊れかけた小屋を見つけ中に入った。小屋は床がなく地面には草がはえ、いつから使われていないのかわからぬ道具がころがっていた。あの「家」の物置として使われていた小屋なのだろう。舞子が「家」に入っていくのを浩介はその小屋から見守った。ここまで追ってきたあげくに、何もせずに小屋から「家」を覗き込んでいるだけの自分が浩介は情けなかった。と、座り込んだ地面から何かを感じた。
こ…う…すけ…さん
舞子?
浩介はむき出しの地面に横になった。
ごめ…んね…。
舞子の意思が地面から伝わってくる。おそらく舞子はあのペンキに再び横たわってるのだ。舞子の意識が家に根をはり出しているーやはりこのままではまずい。家に同化し呑み込まれる前に連れ戻さなきゃ。
だいじょうぶ…。
舞子の意識がやさしく語りかけてくる。が同時に金縛りにあったように、からだが動かなくなった。
「ま、舞子」
ごめん…ゆるして…
その時、浩介の目に、加奈子が家に入っていくのが見えた。
「黙ってみていろというのか?」
けっちゃく…つけるから
舞子の意識が遠のいていく。それに反して、ますますからだの自由が奪われた。
加奈子が「家」にはいってほどなく、雷が鳴り「家」の周りが暗くなって家に雨がはげしく打ち付けた。不気味な光景だった。「家」のまわりを雨のカーテンが囲っている。どす黒い雲の渦の中心に家を呑み込もうとする闇が見えた。
何が起こっているんだ?
浩介は小屋の中から見えるその異様な光景に顔をゆがめた。舞子、自由にしてくれ!しかし、気持ちと裏腹に見えぬ力がからだを更に地面に押し付けた。
「舞子!おまえが怪物になってしまう!」
浩介の叫び声を闇が呑み込んだー
いよいよ、今日のそのときですねw