呪縛の家 その16 加奈子21才(1)
- カテゴリ:自作小説
- 2012/05/31 14:14:45
その日も雷と豪雨だった。何かが変わるときは必ず雷と激しい雨になるー加奈子は小さくため息をついた。
前日、姉の口から出た言葉に加奈子はショックを受けていた。
「お付き合いしている人がいるの。結婚しようと思っているから、明日、加奈子に会わせたいんだ」
「結婚?結婚って、それって…お姉ちゃん、この家を出ていくの?」
ようやくそれだけ、絞り出すように尋ねた。
舞子は浮足立っていて妹の変化に気付かない。
「新居?賃貸のアパートを借りることにしたの」
幸せそうに舞子は小さく微笑んだ。そういうことじゃないよ、お姉ちゃんー加奈子はイライラと心の中で叫ぶ。私をここに一人残して出ていくというの?加奈子の不安に気付いた舞子は、加奈子の気持ちを封じ込めた。
「おばあ様はもういない。もう、おばあ様のご機嫌を伺う必要はないのよ、私たちは自由になったんだもの」
自由?理解できなかった。祖母は「死んだ」がこの家が、私たちを監視しているのを舞子は感じていなかったというのか?ともに苦しみを分け合ってきたと信じていたのに、姉は私をたった一人ここに残して、この家を出ることが出来るというのか?
思いつめた表情の加奈子の心を、舞子は気付かない。
「木戸孝介さん、優しい人だから、怖くないから」
気付かぬはずがない、舞子は笑顔で話し続けながら、加奈子の苛立ちの一つ一つが手に取るように理解できた。悩まぬはずないじゃない、加奈子…。あなたをここに残して出ていくことがあなたにどんなに残酷なことか。
でもね。私も自分の人生を歩んでみたいのよ、一人の女性としてー舞子にはわかっていた。理解してもらえぬことを。それでも、やっぱり自由に歩んでみたいのよ、ごめんね加奈子ーそれを口に出したところで、加奈子を傷つけていることに変わりがない。加奈子を傷つけることより怖かったのは、結婚するのをやめてしまいそうな自分自身だった。なんてひどい姉なんだろう、こころの奥の葛藤が表に少しでも現れないように舞子は楽しげに語り続けたのだった。
どうしても、加奈子のお話はどこかで入れなきゃと思っていました。
彼女から始まるお話ですから。