呪縛の家 その15
- カテゴリ:自作小説
- 2012/05/30 13:23:38
浩介を送り出した舞子は
「ごめんね、浩介。家が待ってくれないみたいです」
書置きすると、テーブルにそっと置いた。
野球帽をかぶりそのうえからきのうパーカーのフードをかぶってペンキのついた顔を隠した。千円札数枚財布から抜き取ってジーンズのポケットにねじこむと、財布もテーブルに置いた。ここに帰って来たいから、あとは全部置いていく。
静かに舞子は「二人の家」を後にした。
途中、フード付きのパーカーを購入し、病院に寄ると、寝ている加奈子の横に紙袋を置いて、いまだにペンキがとれぬその顔にそっと手を触れた。
「後で会おうね」
心の中でつぶやくと、静かに病室を後にした。
「家」に近づくにつれ引力を感じ、からだの一部が家に向ってのびていくような幻覚に囚われながらも舞子は、「私の半分は、母方の血なのだから」声に出して自分に言い聞かせ、ゆっくり家に近づいていく。
ドアの鍵は開いたままだった。ドアを開けるとペンキの匂いに囲まれた。おそらく救急車で運ばれた時のままなのだろう。赤い部屋から、ドアのあたりまで、あちこちに赤いペンキがこすれてついている。帽子をとって、靴をぬぐと引っ張られるがまま、ペンキの部屋ー元の自分の部屋に入っていった。ペンキの表面は乾いてきていたが、舞子が足を一歩踏み込むとぐにゃりと足に粘りついた。舞子は、そのまま加奈子がしていたように、横になった。
うでに傷をつくり部屋にぶちまけた赤いペンキの海で加奈子が感じていたのは、家との同期。祖母が乗り移ってくる感覚。支配欲だけで生きていた女性・・・。おそらくそれでは、孤独は埋められなかったのだろうに、祖母は理解できないまま、この家と今も息づいているのだね。心に入り込んでくる祖母の闇が、とまどっているのがわかる。と、すべての感情が引いていくのがわかった。
「憐みなどいらない」
加奈子の姿の祖母がそこに立っていた。
ただひたすら耐えるしか出来ず、小さな加奈子をかばいながら目から涙をこぼしていた自分とは決別したのだ、舞子は心の中で何回もそう繰り替えし、自分を奮い立たせた。ペンキの海から立ち上がると舞子は、加奈子を睨み返し、強い口調で命令した。
「加奈子を返しなさい」
加奈子がひるんだ。祖母の影に隠れていた加奈子がちらりと現れたのを舞子は感じた。
「おばあ様・・・?」
加奈子の声だ。祖母の意識が加奈子から舞子に侵入しようとしているのを舞子は感じた。舞子の強い態度は生前の祖母を彷彿させるものだった。しかし舞子は首を強く横に振った。
「あなたはもういないのよ。私と加奈子を縛ることを私はもう許さない」
窓の外で雷が鳴った。
ドレス♥ハムもまた、課金したら
買おうかなぁ~って思ってるんだぁ!!
アナキンがダークサイドへ行ったように、おばあさんがダースベイダーになるお話も期待してますw