呪縛の家 その10
- カテゴリ:自作小説
- 2012/05/21 18:49:34
加奈子はアイスコーヒーを一口飲んだ。そしてふと気づいたように言った。
「おねえちゃん、離婚届けはまだ出してないから」
驚く舞子を無視して加奈子は、浩介に笑いかけた。
「私がここにいる間に、無効届け出すなら出せば?おねえちゃんを助けて、寄りを戻したくなったんじゃないの?向こうのご両親巻き込んでせいぜい離婚騒動でも何でも繰り広げれば?」
楽しくて仕方がないといった様子の加奈子を、舞子と浩介は呆然と見つめた。
「私はあと数日、ここでバカンス気分で滞在するわ、じゃあね、お二人さん」
悠然と加奈子は喫茶室から出て行った。
「舞子、舞子」
浩介に肩をゆさぶられてようやく舞子は我に返った。
「とりあえず『僕たちの家』に戻ろう」
舞子はうなずくしかなかった。
「掃除してないから…」
浩介がマンションのドアを開けながらそういった「家」は歩く踏み場もないほど、物が散乱していた。
「ああ、なんでこんな物がここにあるの?いやだ、もう!」
反射的に舞子は片付けを始めた。浩介の知ってる舞子が戻っていた。
「あなた、これ物置きに持って行って!」
あっというまにゴミ袋を数個満杯にしたものを押し付けられる。
「はいはい、一休みもさせてもらえないのかい」
浩介は、苦笑しながら舞子からゴミ袋を受け取った。
ゴミ袋を物置きまで運びながら、浩介の顔から笑みは消えていた。舞子があの「家」戻って改めて感じた舞子への愛情。しかし。あの「家」は、舞子を手放すのをやめたのを、加奈子を通じ伝えてきた。それだけですまないかもしれない。孝介は今更、後悔していた。あの家に両親を連れて行ったことを。あの「家」は関わった者全てを貪欲に呑みこんでいくような恐怖を孝介は感じていた。。。
「もう、これは、ゴミ。これは洗濯物じゃないっ!」
ブツブツ独り言を言いながらゴミ袋を持って格闘していた舞子の手がとまった。なんて日常的な場所なんだろう。でも私はー。私が日常に存在するのを「家」が許していない。加奈子が…加奈子を人質にとられたまま、私だけ日常に生きることーそれは私には出来ない…。
ベッドの上で加奈子は思った。お姉ちゃん・・・。私の存在がお姉ちゃんを追い込んでいく。正気がちょっとでも残ってる間に、私がケリをつけたいのに。でも狂気が私を侵食していくの、お姉ちゃん、怖いよ、スピード増して私は加奈子でないモノー認めたくないけれどお祖母様が私を呑みこんでいってるよ、お姉ちゃん。。。
それが三者三様に繰り広げられて、この先の道を阻んでいるような予感が…
それぞれに、ちゃんと分かっているのに、誰もがどうしようもないと諦めかけているような感じ。
みんな頑張れ、と思わず言ってしまいそう。
でも、きっとこんな状態の人たちに、頑張れは言ってはいけない言葉ですね。
第三者である浩介にまで感じ取れる狂気と恐怖・・・
続きが楽しみです^^
なんとなく、ぼうぼうさんのこないだのお引越しも想像できるwww