Nicotto Town


おうむたんの毒舌日記とぼうぼうのぼやき


自作小説 呪縛の家その9

退院手続きは孝介がテキパキすすめるのを、なんだか不思議に見つめていた。孝介ってこんなこと出来るんだ。。。妻なんて必要なくて、何だって出来るのだ。ならばこそ私は彼に必要な存在ではない…改めて思い知らさられる現実。
「あっちの病棟だそうだ」
考えているうちに孝介はもう手続きを済ませていた。
「え?」
孝介の言葉に反応できない自分に苛立つ。
「あっち?」
「加奈子ちゃんのこと」
「あ…」
孝介がまた舞子の手を握ると引っ張った。
素直に導かれることの心地よさを感じながら、それを手放したのは自分であると戒める。でも今は。。。
俯きながら彼女は再び孝介に身を委ね、歩き出した。

精神科の病棟のナースセンターでも孝介は主導権は変わらなかった。
「義理の妹と面会したいのですが。。。はい、昨日入院した高橋加奈子です」
面会所に案内される。喫茶室?そこでは穏やかな談笑が普通に行われていた。アイスコーヒーを三つ、孝介が当たり前のように頼む。いや、病院の中ということさえ忘れてしまいそうな喫茶店が病院内にあるのだ。
「自ら希望して入院したんだもの。開放病棟なのよ、普通の入院と変わらないわ」
加奈子が入ってきて笑った。
「かな…こ」
絶句する舞子の真意に加奈子は気づいていない。満面の笑みで
「自らの意思で入院を希望すれば、他の科の入院より世間に近い自由があるのを知ってる人の方が少ないかもね」
ペンキで赤く染まった顔を隠そうともしていない。ねぇ、それが普通でないってこと加奈子、あなたにはわからないのね…。心の中で語りかけるが、当然加奈子に伝わっていない。腕の真っ白な包帯が昨日の出来事を舞子に生々しかった。
うつむく舞子の気持ちなぞ全部お見通しとばかり、加奈子は不自然なほど明るかった。
「お義理兄さんまで来てもらえるなんて、光栄だわ」
加奈子は異様なほど生き生きと話し始めた。
「昨日のことでしょう?」
加奈子は笑いをこらえきれずにいるようだった。話す機会を今か今かと待っていたのだ。
「こんな状態に事を大きくしたのは、お姉ちゃんなんだよ?」
加奈子は、うつむく舞子の顎にてをかけ視線を舞子にしっかり合わせた。
「あんなこと、今まで何度もやってる『日常』なのに」
いきなり加奈子の顔が鬼になった。
「日常をぶち壊したあなたは、どう責任をとるの?」
口調だけは静かだったが、加奈子の闇の深さに舞子は息を呑んだ。祖母が加奈子を巣食っているー舞子には見えた。私が逃げたから…祖母の意思は加奈子を壊すことにしたのを感じて、舞子はブルブルといきなり震えだした。
「お姉ちゃんこそ、入院と休養が必要なんじゃないの?」
「加奈ちゃん…」
ぞっとするようなやり取りを終了させたのは孝介だった。
「加奈子ちゃん、それ以上言うのはやめなさい」
そして舞子の顎にかかった加奈子の手を掴むと言った。
「アイスコーヒーにミルク入れるよね?」
命令にすら聞こえるその言葉に、何故か加奈子が素直に従った。
「お姉ちゃんはいいよね。旦那さんが助けてくれるもの」
ボソリという言葉に底知れぬ孤独があった。

アバター
2012/05/24 23:26
 旦那さま、大活躍の回ですね^^
 もっと普通の恋愛小説でも、使えそうなキャラです。

 舞子の持つ危うさと、加奈子の持つ危うさが、上手くバランスをとりながら読者側に伝わってきます。
 
アバター
2012/05/20 13:22
孝介クン、キャラが膨らんでく、でもどこかひっかるキャラにwww お話の重要キャラ化が進んでるw 
時刻、早いですね!ご自愛ください^^
アバター
2012/05/20 10:50
私は 登場人物の表面的な言葉しかわからないから・・・・・・
加奈子の言葉がすごく怖いです。
その反面、自分が加奈子であるような錯覚にも陥ります。

もしかしたら、加奈子に恐怖しながら私は加奈子自身なのかもしれない。。。。

そんなことを思いました。



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